コラム  エネルギー・環境  2017.06.08

南シナ海のメタンハイドレート試掘成功

 5月中旬、海洋エネルギー資源開発に関する大きなニュースがあった。報道によれば、中国は、南シナ海北部において、5月18日までに、187時間連続で海底メタンハイドレートの産出に成功した。天然ガスの産出量は一日当たり1万㎥超、最大3.5万㎥で、延べ産出量は12万㎥超であった。

 メタンハイドレートは、その埋蔵資源量が他の化石燃料を合わせた量を上回ると推定されており、シェールガスが世界のエネルギー需給に大きな影響を与えたように、世界のエネルギー情勢を変えてしまう可能性を秘めているとも言われている。日本や米国をはじめ、世界各国はその開発に向けて研究を進めている。ここでは中国のこれまでのメタンハイドレート開発を振り返りながら、この新しいエネルギー資源に対する中国の取り組みの姿勢を確認してみたい。

 1999年、全国国土資源調査をきっかけに、国土資源部に所属する広州海洋地質調査局は、南シナ海でメタンハイドレート探査を開始した。同年、調査船「奮闘五号」による地震探査を通じて、西沙諸島海域に初めてメタンハイドレートの存在を示す「海底疑似反射面(BSR)」を発見し、その後、南シナ海北部の広い海域にメタンハイドレートが存在する可能性が確認された。これらの調査を踏まえて、2002年政府は国家プロジェクトである総合資源調査を開始した。地球物理、地球化学、海洋生物学等の調査により、資源賦存状況を分析、評価したうえで、2007年に初回のボーリング調査を行った。オランダFUGRO社の調査船「Bavenit号」を使い計8カ所を掘削し、5個のサンプルを得、そのうち3個にメタンハイドレートを確認できた。これらの調査をもとに、2011年「南シナ海北部神狐海域メタンハイドレートボーリング成果報告」がまとめられたが、11の鉱区に194億㎥の資源を想定し、2020年までの試掘を目標にしている。この成果を受けて、政府は同年、開発に向けた新たな国家プロジェクトの実施を決定し、2013年5月より大規模なボーリング調査を行った。この調査では、10カ所を掘削しメタンハイドレートのサンプルを採取・確認したうえで、推定資源量を引き上げている。その結果2014年、今回の海域での産出試験の計画を開始した。今回の発表では、今後3-5年以内に次の試験を行い、2030年までに商業生産につなげたいとしている。

 これらの政府主導の資源探査・開発プロセスでは、関連施設、設備・機器等の開発も同時に進められてきた。まず、調査プラットフォームとして、2004年に現在の資源探査の主力になっているメタンハイドレート総合調査船「海洋六号」の設計を開始し、2007年には建造が始まった後、2009年10月に運用が開始された。また、深海探査では、2014年に大型4,500メートル級深海ROV「海馬号」が開発された。さらに、海洋資源開発プラットフォームに関して、2012年に稼働開始した「海洋石油981」から、中国の設計・製造した大水深掘削リグは世界的にも進んだレベルに達しているとされ、今回使用されたプラットフォームは、さらに進化した「藍鯨1号」である。このリグは、作業可能水深が3,658メートルで、最大掘削深さが15,240メートルになる。

 海域におけるメタンハイドレートの開発は、日本が世界をリードしてきた経緯がある。2013年3月に、渥美半島から志摩半島の沖合において、6日間の連続産出試験が成功し、延べ12万㎥の天然ガスを産出した。当時、中国の専門家の間では、中国の技術が日本より10年から20年遅れているとの評価があったが、今回の南シナ海における産出試験の成功により、中国が急速にキャッチアップしてきていると言えよう。この急成長のプロセスにおいて、政府主導と公的資金投入はベースとなっており、今回のメタンハイドレート探査・開発を担った地質調査局は、海洋全般を所管する海洋局と同じく、国土資源部の外局であり、この一元化の実施体制もスムーズな研究開発に繋がった。海洋基本法の策定から10年立ち、2期目の基本計画が進められている日本でも、個別のプロジェクトを各省庁が担当するのではなく、主体的に進める組織の創設が、経済社会の存立基盤である海洋の開発利用の促進につながるのではないだろうか。