メディア掲載  エネルギー・環境  2017.04.20

大型炭素税の導入は-部門別・燃料別の政治的配慮で不透明に-

エネルギーフォーラム EP REPORT 第1883号に掲載

 経済全体のCO2排出に一定の税率で大型炭素税を導入しようとすると、どのような政治的配慮が必要になるだろうか。

 家庭部門ではエネルギー消費の大半は電気とガスであって、石油は減少傾向にある。現在、電気とガスはサービス当たりのCO2排出量ではしのぎを削っている。すると、電気とガスの間では、代替が起きるとしても、CO2削減は量としてはあまり期待できない。



避けられない政治的配慮

 石油については、高い税率を課するならば、もちろん価格効果も代替効果も発生すると思われるが、これはありそうにない。というのは、家庭用の石油については、政治的配慮によって、高い炭素税を課することは難しいからだ。

 石油は、まだ暖房用途に多くが使われている。特に、これは北海道などの寒冷地で家計に影響する。これを価格効果で減らせるだろうか。価格効果というと、無色透明な感じがするが、実際には「貧乏人は使うな」というに等しい残酷なものになる。現実には、暖房用の石油は減・免税にせざるを得ないだろう。このような政治的配慮は現実には避けて通ることが難しい。

 産業部門と業務部門はどうか。石炭は製鉄・セメント業といったエネルギー集約産業によって用いられているものがほとんどである。これについては、他燃料での代替は大幅なコスト増になるので、やはり減・免税が必要になるだろう。

 エネルギー集約産業以外の産業部門では、石油と電気が半々であり、ガスは比較的少ない。業務部門では、エネルギー消費の4分の3は電気とガスであり、残りは石油で減少傾向にある。産業部門と業務部門の石油については、それをガスで代替していくことで、CO2削減が可能かもしれない。

 これは技術的には可能である。実際に、米国や欧州では産業部門においても石油はあまり使われておらず、ガスが使われている。だがこれは、石油よりもガスが安いという事情による。日本ではガスの価格は高いので、ガスを使う動機は強くない。またパイプラインが敷設されていない地域も多くあって、そこではもちろん都市ガスは使えない。さらに石油からガスに転換するとなると設備更新が必要になるので費用がかさむ。石油をガスで代替することは容易ではない。



政治的調整が必要に

 炭素税の価格効果で石油の使用を削減しようとすると、家庭部門の暖房同様に、政治的調整が多くの場合で必要になる。例えば、農業、漁業は隠れたエネルギー集約産業であり、石油に依存しているので、大幅な増税は政治的に不可能だろう。ほかにも、病院はどうかなど、業務部門・産業部門においても、調整がほかにも無数に必要になる。

 このようにして見ると、大型炭素税は、政治的配慮の帰結として、エネルギー集約産業の石炭・石油、家庭用石油、農・漁業用石油など、多くの部門や燃料について減免されることになりそうだ。その一方で電気・ガスには高い炭素税が課されるとなれば、電気・ガスへの代替を阻むことになる。長期的な温暖化対策としては、大規模な排出削減を目指すこととなっており、このためには電気・ガスへの緩やかなシフトが望ましいが、これではまるで逆効果になってしまう。教科書的に単一の炭素税率が実施されるならばこのようなことは起きないが、現実には政治的調整は避けて通れず、その帰結を考えねばならない。



炭素税のCO2削減効果は

 それでは、日本で大型炭素税を導入すると、そのCO2削減量は、また税収はどの程度の規模になるだろうか。電力・ガス価格を倍増するような大型炭素税を想定して概算しよう。

 エネルギー集約産業を免税と想定すると、残りの産業部門と家庭・業務部門は、日本のCO2排出量の約半分となる。これを対象にして大型炭素税を導入すると、価格弾性値が0.1程度と置いて、エネルギー価格の100%上昇に対してCO2削減率は10%になる、すると日本全体のCO2排出量は5%削減されることになる。

 一方で、大型炭素税の税収は巨大である。エネルギー集約産業を除外するとしても、エネルギー価格を軒並み倍増するとなると、20兆円規模の大増税になる。



増税には大きな弊害も

 これだけの大増税をするとなると、その負担の配分や国民経済への影響は慎重にならねばならない。もちろん、そのようなものと理解して、CO2削減ではなく、主に税収を目的にするならば、かかる税を導入することも正当化できるかもしれない。だがこのような規模で考えるならば、マクロ経済が冷え込んだり、産業が空洞化したり、その帰結として温暖化対策技術のイノベーションが阻害される可能性にも配慮しなければならない。