コラム  エネルギー・環境  2017.02.21

エネルギーミックスの再考

 今年は、2014年4月に閣議決定された第四次「エネルギー基本計画」の見直しを開始する時期である。この見直しは、福島第一原発事故の後に行われた様々な議論、その後の政策展開を踏まえ、「3E+S」の基本的視点に基づき、現下の政策環境を踏まえて行われることになる。特に、第四次「エネルギー基本計画」において石炭と原子力をベースロード電源に、天然ガスをミドル電源に、石油をピーク電源に、再生可能エネルギーを重要な低炭素のエネルギー源に、それぞれ明確な役割を与えられたエネルギー源についてはどのような検討が加えられるのだろうか。本稿では、このような問題意識から、二つの海外の最新情報を紹介しつつ、特に原子力と再生可能エネルギーの役割に関して考えてみたい。

 まず、原子力についてである。原子力は、従来運転コストが低廉で、安定的に発電できることから、第四次「エネルギー基本計画」において「重要なベースロード電源」とされている。この点に関して、年明け早々、一つの注目すべきニュースが太平洋を越えて伝わってきた。米国Entergy Corp.は、ニューヨーク州との合意により同州のIndian Point原子力発電所を閉鎖することを発表したのである。ニューヨーク州Andrew Cuomo知事は、かねてマンハッタンから35マイルしか離れていないこの発電所が地域に与える安全確保上の懸念を表明してきたが、一方で安全規制当局のNRCは、2015年、同発電所に対し安全審査を行ったうえで、安全に運転しており今後も継続的に安全運転しうると結論をくだした経緯がある。では、安全問題ではないとして上記決定に至った他の理由はあるのだろうか。それは、発電所を維持運転するための経済性にあるといわれている。いわゆるシェール革命により廉価な天然ガスが供給されることで、過去十年間、電力価格は45%低下している。この電力価格の下落により、Indian Pointのような原子力発電所は、経済性が相対的に低下してきたのだ。つまり、原子力発電は、少なくとも安価な天然ガスが豊富に供給できる米国においては従来のような経済性が発揮されなくなっている。

 一方、環境シンクタンクであるEnvironmental Progressの2014年に行った解析によると、Indian Point原子力発電所が閉鎖されれば、ニューヨーク州の化石燃料依存度は、現状の44%から56%に増加し、2010年以来減少している州全体のCO2の排出量は29%増加するとされている。複数の州政府は、原子力が地球温暖化対策上重要な役割を担うといった観点等から、再生可能エネルギーと同様に原子力発電所に対して補助金を出しており、米国エネルギー省も、次世代技術開発に公的資金を投入していることにも留意すべきであろう。

 日本との関係でも、すでに1月6日に米国発シェール由来のLNGが新潟県の発電所に到着した。シェール革命の「恩恵」が日本にも及びつつある。これにより原子力発電の経済性は、従来よりも安価で調達できるLNGを燃料とする天然ガス発電の価格も考慮して判断されることとなる。もっとも、原子力発電の役割を検討するに当たっては、経済性に加え、エネルギー安全保障や地球温暖化抑制といった観点も考慮すべきことは当然である。

 他方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電コストは、技術進歩やいわゆるスケールメリットの効果などによって、ここ10年順調に低下してきている。このメリットを享受した具体的な成功例として、ドイツの事例がしばしば取り上げられている。同国は、原子力発電を減らしながら同時にCO2排出量も削減することを達成することを、2010年代の前半まで成功しつつあった。しかし、2016年は少し事情が異なるようである。三つの研究機関(Franhofer Institute, AG Energiebilanzen, Agora Energiewende)は、二つの異なるデータセットをベースにそれぞれ分析した結果、ドイツのCO2排出が増加したとしている。その理由は、原子力発電の代替として期待されていた再生可能エネルギーによる発電量が、予想より少なかったことである。2016年の再生可能エネルギーは、前年と比較して、設備容量ベースで、風力で10%、太陽光で2.5%それぞれ増設されたが、実際の発電量はそれぞれ1%増(風力)と1%減(太陽光)にとどまったのである。それは、風力が少なく(風が弱かった)、日光が十分ではなかった(晴れる日が少なかった)からであるが、振り返ると、広範なグリッド建設と蓄電技術のイノベーションを前提として、風力や太陽光による発電が安定的に供給できれば、再生可能エネルギーは地球温暖化抑制とエネルギー安定供給の中心的な役割を果たすことが期待されてきた。しかし、いかに技術が進歩しても、風を吹かせるのは容易ではないし、天気を快晴に維持することも困難であろう。再生可能エネルギーは重要な低炭素の国産エネルギーではあるが、再生可能エネルギー特有の制約も改めて注目されているところである。

 「エネルギー基本計画」を見直す過程では、いろいろな観点からさまざまな材料が検討されることになるが、上記のようなことも含め、グローバルな視野から長期的な観点も踏まえて議論がなされることが期待される。