メディア掲載  国際交流  2017.02.15

国際人材確保: 「実践の時」を迎える日本

電気新聞「グローバルアイ」2017年2月8日掲載

 米国のTPP離脱や英国のEU離脱が示す如く、20世紀までグローバル化の牽引役を果たしたアングロ・サクソン系の大国が、その長期的趨勢に異を唱え始めた。反対に、グローバル化の恩恵を受けて成長を遂げながら自国中心の政策を堅持していると非難を浴びてきた中国が、グローバル化の重要性を世界に対し説き始めたという奇妙な"ねじれ現象"が出現している。

 グローバル化に対し如何なる政策的対応を各国が採ろうとも情報通信技術(ICT)と輸送技術の発達により、世界各地の活動が時空上で近接化する傾向は決して変わることはない。こうした状況下での肝要な事は、技術的なグローバル化の長所・短所を正確に見極め、その短所を出来るだけ防ぎつつ、長所を最大限活用するという"サバイバル術"を具えた人材育成である。

 以上の問題意識を基にして、先月開催された世界経済フォーラム(WEF)で公表された或る報告書に注目している。その報告書にはフランスのビジネス・スクール(INSEAD)を中心とする研究者が、各国のグローバル・タレントに関する競争力を指標化した試みが示されている。

 指標化に関する方法論の賛否は別としても、その結果に筆者は驚きを隠せない。すなわち日本は世界第22位に位置しているのだ。世界の上位について見ると、首位のスイスに続き第2位がシンガポール、その後には英国、米国、スウェーデン等の先進諸国が続く。アジア太平洋地域に限って見ても、日本はシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドに続いて第4位だ。

 この指標は、グローバル・タレントを如何なる形で各国が魅了・育成しまた管理・定着せさているのか、またその結果として、各国が確保したグローバル・タレントが、如何なる職業的な技術と創造力や問題解決能力を持っているのか、こうした点に関して定量的に測定・評価したものである。

 対日評価を詳しく見ると、更に興味深い点が浮かび上がる。海外の優れたグローバル人材がひとたび日本を訪れれば、彼等を育成・管理し、そして定着させる点では評価されるものの、そうした海外の人材を、"訪れる前"に魅了する力に関して諸外国と比べ見劣りすると報告書は伝えている。そして改善すべき点として報告書が指摘する事項は、我々が長年議論してきたものばかりだ。すなわち日本は、世界一流の知識労働者を魅了する舞台--国籍や性別に関係無く優れた人材を評価し、国際的な人的ネットワークを活用出来る組織が求められている。同時に、職業的技術を高めるため、長時間労働・低労働生産性の改善を目指す組織改革と、知的な対外情報発信と高付加価値で新たな事業を育む制度改革が求められている。

 報告書が発表される直前、関連する研究を行う知人達と議論するためフランスとシンガポールを訪れ、情報を収集する機会に恵まれた。彼等が筆者に語った事は極めて印象的であった--ジュン、国内に留まるか否か、いずれにしろ海外情勢を知悉しなければ、幸せになれないね、と。これに対し、筆者は遠い昔の日本の苦い経験を語った。明治維新の頃の日本国内における金銀の相対価値(比価)は、海外に比べ金安だった。このため開国した途端、明治初期に鋳造された金貨約5500万円のうち4300万円が銀貨と交換され海外に流出してしまった大失策を、東京大学の故中村隆英先生に教えて頂いた。昔も今も世界を知らないと痛い目に遭うのだ、と。グローバル化が進展するなか、人材育成に関し、日本は言葉ではなく実践の時を迎えている。