コラム  国際交流  2017.02.09

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第94号(2017年2月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 先月の23日、トランプ米大統領がTPP離脱の大統領令に署名した事に関して、米欧の友人達と議論し、改めて国際政治経済の将来を展望することの難しさを感じている。その直後の25日夜に韓国の友人から「米国の国防長官が訪韓・日」との連絡が入った。同長官には読書家で歴史を詳しく学ぶ人(a student of history)との評判があり、彼の発言からうかがえるのは優れた軍人としての自制した態度(self-interested self-restraint)だ。そして彼の愛読書の中に名著(With the Old Breed: At Peleliu and Okinawa)を見つけ出して感動し、彼の活躍に期待を寄せている(同書は、小誌第73号(2015年5月)で触れた映画(The Pacific, 2010)の原作だ)。とは言うものの、西太平洋における安全保障問題は、多数の国の国益と歴史観が絡んで容易には解決出来ないという理由から、筆者は同盟国の一市民としてこの優れた国防長官の言動、更には米大統領の大胆な言動を注視してゆくつもりだ。

  • ①ドイツの友人が「ジュン、トランプ氏が"The EU is a vehicle for Germany"と語っている!」とメールを送ってきた。筆者は「Financial Times紙にも、独大衆紙(Bild)の第一面の写真が載っていたので知っているよ(次の2参照)。米国の人々は、クルーグマン教授の"A Country Is Not a Company" (Harvard Business Review, 1996)を再読すべきだ」と返信した次第だ。
  • ②米国の友人が「約10年前にボールドウィン教授が"Globalisation: the Great Unbundling(s)"で語った事を、世間は未だ理解していない!」という嘆き節を電子メールで送ってきたのに対し、筆者は「世の中とはそんなものさ。教授は優れた近著(The Great Convergence: Information Technology and the New Globalization (Harvard University Press, 2016)、小誌昨年12月号参照)の中で21世紀のglobalizationの本質を再度説いたけれど...、この本を正確に読む人の数は...」と応えた次第だ。
  • ③先月31日、Harvardのジェイ・ローゼンガード氏を弊所(CIGS)に迎えて、"Dream or Delusion? The Promises and Pitfalls of Trumpenomics"と題しセミナーを開催した。筆者は「米国はスムート議員(ユタ州選出)とホーリー議員(オレゴン州選出)が提案した関税法と、その教訓に関するMITの大先生による"Kindleberger Spiral"を完全に忘れている。そしてヘンリー・ケアリー先生(リンカーン大統領の経済顧問で保護主義者)の時代に米国は戻ったみたいだ」とセミナー後に彼に語った。

 今年のダボスでの基調講演で、習近平主席はglobalization(全球化)が世界全体にもたらす恩恵の重要性と、個別的には両刃の剣(双刃剑)になりうるglobalizationに挑戦する勇気を世界のリーダー達の前で語った。

  • ①欧州の友人達が「ジュン、中国人が我々西欧にglobalizationを説いている!」と驚いた様子の文面でメールを送ってきた。それに応えて筆者は「彼等らしいじゃないか? チャールズ・ディケンズ(查尔斯·狄更斯)やアンリ・デュナン(亨利·杜南)の名言を引用しつつ世界に語りかけ、同時に"世の中に完璧なモノなど無い(nothing is perfect in the world)"と、中国の古詩の一節(甘瓜抱苦蒂,美枣生荆棘)を引用し自らの弁護すらも暗示させるあたりなど、中国の真骨頂だ!」と返信した。
  • ②それでも中国に説教される事に抵抗感を抱くフランスの友人に対し、冗談を交えつつ「君は歴史を学ぶべきだ。太陽王時代以降の度重なる戦争の果てに18世紀後半のフランスは疲弊していたが、財政を担当して国力回復を図るベルタンやテュルゴー等重臣は乾隆帝時代の中国から学ぼうとした。テュルゴーの著書『富の形成と分配に関する諸考察(Réflexions sur la formation et la distribution des richesses)』を斜め読みし、歴史を正確に学んだ方が良いかも?」とメールで伝えた。

 先月初旬、シンガポールと香港を訪れ、21世紀の産業政策や民主主義の行方について議論をした。

  • ①シンガポールでは、Harvardのケネス・ロゴフ教授の本(The Curse of Cash (Princeton University Press, 2016))の中の日本に関する分析や未来経済委員会(Committee on the Future Economy (CFE))の提言に関して討議した(同国は情報通信技術(ICT)の拠点としてcyber securityやe-commerceを基石、Fintechを起爆剤とし、国際金融業を更に推進してゆくらしい)。
  • ②香港では、昨年11月にジョージ・メイソン大学のブライアン・カプラン教授の著書が翻訳されたとのことで、友人から同書の感想を求められた--その著書とは«理性選民的神話: 我們為什麼選出笨蛋? 民主的悖論與瘋狂»だ(原書はThe Myth of the Rational Voter: Why Democracies Choose Bad Policies (Princeton University Press, 2007); 邦訳は『選挙の経済学』 (2009))。筆者は「元来、"正しく機能している民主主義(properly functioning democracy)"は稀で、大抵は"観客民主主義(spectator democracy)"だと思っていたから、未読なんだ」と答えたため、帰国後になって同書を遅まきながら読んでいる。


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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第94号(2017年2月)