メディア掲載  グローバルエコノミー  2017.02.01

米大統領選の教訓

共同通信より配信

 先に行われたアメリカ大統領選挙は、大方の予想に反して、共和党のドナルド・トランプ氏の圧勝に終わった。もともと共和党の支持基盤となってきた南部や西部ロッキー山脈地域等に加えて、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア等、中西部諸州で勝利したことがトランプ氏の圧勝につながった。

 これら中西部諸州は鉄鋼、自動車等の産業の集積地として19世紀後半から、アメリカの経済大国への成長を支えてきた。しかし、1970年代以降、比較優位構造の変化と国際競争の中で、アメリカの製造業は困難に直面し、上の地域は「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれるようになっている。

 トランプ氏の反グローバリズム、保護主義の主張がこれら地域の人々、特に労働者階層の支持を集めたたことは想像に難くない。こうしたグローバル化に逆行する動きとその背景は、本年6月に決定されたイギリスのEU離脱にも共通するものがある。

 国の間の貿易障壁を引き下げることによって、各国がそれぞれ全体として利益を受けることは経済学の教えるところである。一方で、貿易障壁の引き下げは、各国の中で人々の間の所得分配を変え、特に先進国では所得格差を拡大させる可能性が大きい。このことも、また経済学から導くことができる。

 民主主義の政治体制の下で、貿易自由化を進めるためには、自由化によって国全体で生じた利益を再分配し、負の影響を受ける人々に利益を均霑(きんてん)させる施策を併せて提案・実施することが欠かせない。アメリカ大統領選挙の結果はこのことをあらためてわれわれに示した。