コラム エネルギー・環境 2017.01.25
年末に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決められ、また、高温ガス研究炉「HTTR」がいまだに安全審査のため再稼働に至らないなど日本の次世代原子炉開発の現状を案じつつ新年を迎えました。
昨年開催した講演会のことを思い出します。中国の次世代原子力開発の動向をご紹介したところ、原子力業界の方から「中国ではあれほどのスピードで多様な原子力開発を行っているが、それはともすれば開発優先で安全規制やそれを担保する審査は緩いのではないか」との質問を受けました。素晴らしい安全意識に感心する一方、日本においては安全規制や審査は新技術開発にとって大きなハードルの一つになっているのではないかとも懸念されます。
中国は国内での大規模利用のみならず、原子力をインフラ分野の海外輸出の目玉にしていることもあり、常に科学的知見や技術の進歩、国際動向等を踏まえて基準制定や改定を行い、規制当局である国家核安全局の下に大きな専門家集団を作っており、手を緩めているわけではありません。しかし、ともすれば開発優先とも解釈できるように、新技術に対してある程度の柔軟性を持っていることも事実です。高温ガス炉実証プロジェクト(HTR-PM、山東省石島湾)の運転主体として、これまで原子力ライセンスを取得している大手3社のいずれもが入っていないことは、その一例です。このような柔軟性も主要な一因となって、中国の高温ガス炉、高速炉、溶融塩炉などの次世代原子炉技術レベルは、速いペースで世界先端水準にキャッチアップしつつあります。
このような柔軟性は中国だけに見られるのではありません。米国原子力規制当局のNRC(Nuclear Regulatory Commission)は、エネルギー省(DOE)の次世代原子力ビジョンと戦略に合わせ、産業界の要請もあり、次世代原子炉の規制と審査のフレームワークを検討し、昨年7月に「NRC Vision and Strategy: Safely Achieving Effective and Efficient Non-Light Water Reactor Mission Readiness」をまとめて、パブリックコメントを募集しました。ここにはその目的として「NRCが次世代原子炉について効率的かつ充分な審査と規制ができる準備(readiness)」を行うこととされ、そのためによりダイナミックな国内規制環境と国際化した非軽水炉産業を考慮しながら、柔軟的な規制フレームワークを構築すると明記されています。
柔軟性を持つとはいえ、決して安全基準を下げたわけでもなく、安全審査を緩めたわけでもありません。安全規制当局、エネルギー政策当局、原子力技術開発者、産業界等が相互に連携を取りながら、このような環境の中で各国の次世代原子炉開発は、着実に進んでいます。世界最先端水準の技術を持つ日本の高温ガス炉(HTTR)は、軽水炉に基づいて作られた新安全規制を満たすための文書を準備中ですが、その間中国では実証プロジェクトが今年中に運転開始が予定され、米国では昨年DOEが実証プロジェクトへの公的資金投入を決定し、カナダではStarCore社が昨年小型商用炉設計に関してCanadian Nuclear Safety CommissionにVendor Design Reviewの申請をしています。
日本でも近い将来一層柔軟な環境が整備され、次世代原子炉開発が加速することを願っています。本年、当研究所の資源・エネルギー・環境チームは、地球温暖化抑制と将来の日本のエネルギー安定供給の重要な一角を担うべく次世代原子炉の技術開発の在り方について、引き続き産官学の専門家の協力を得て、検討していきます。皆様のご支援とご鞭撻を頂ければ幸いです。