論文 財政・社会保障制度 2016.11.24
はじめに
第15回は山形県新庄市を取り上げる。新庄市は、山形県北部に位置し、東に「みちのくのアルプス」と呼ばれる神室山系、西に最上川がある全国屈指の豪雪地帯である。新庄市は、古くから交通の要衝として発展し、平成11年12月には、山形新幹線が新庄駅まで延伸された。高速道路網も整備され、近年、新庄中核工業団地への企業進出が相次いでいる。
昭和9年には、農林省蚕業試験場福島支場新庄出張所が開設され、養蚕業も盛んであった。現在はその跡地が「新庄エコロジーガーデン」として生まれ変わり、手作りされた物を通して人と人が触れあう「キトキトマルシェ」が定期的に開催されている。また、厳しい環境の中で育った新庄産米や野菜は味が濃く、山菜やキノコ、漬物など貴重な食材を大切に保存する食文化が発達してきた。四季折々の郷土料理をはじめ、蕎麦、とりもつラーメンなどのご当地グルメも県内外から好評を博している。
新庄市は平成3年度から平成12年度までの10年間に、市民球場(約15億8700万円)、日新小学校改築(約32億1700万円)、市営住宅(小桧室団地)建設事業(約19億4100万円)、市営斎場(約10億1600万円)などの公共事業を集中的に行った。普通建設事業費は428億円にも上り、243億円の市債を発行してきた。特に、平成11年度の山形新幹線新庄延伸関連事業では、新庄駅東西広場整備事業や道路整備事業として約35億円(起債25億円)を投じた。
新庄市は周辺の7自治体と「最上広域市町村圏事務組合(以下、広域事務組合と略す)」を構成しており、平成5年度から平成14年度にかけて、し尿処理場(38億円)、リサイクルプラザ(30億円)、ごみ最終処分場(16億円)、新庄駅に隣接するコミュニティ施設「ゆめりあ」(61億円、起債40億円)、ごみ焼却施設(57億円)と相次いで建設した。
また、新庄市は干ばつ地帯であったため、最上川から導水する国営新庄農業水利事業が実施され、平成5年度に48億円の債務負担行為を設定した。このうち、利用する農家の自己負担分の21億円も新庄市が肩代わりした。加えて、関連するかんがい排水事業等について、利用する農家の自己負担分の29億円の債務負担行為を設定した。
さらに、新庄市は公共下水道事業の供用開始が平成元年度と遅く、下水処理場の建設に要した費用及び管渠設備等の初期投資を回収できておらず、公共下水道事業特別会計への繰出金が平成12年度には6億円にも及んでいることなども影響し、平成20年度決算の実質公債費比率が25.9%と早期健全化基準である25%を超えたため、平成21年度に財政健全化団体となった。新庄市は、平成16年度に「財政再建計画」を策定し、起債の抑制や人件費削減に取り組んできていた。財政健全化団体になったことを受け、平成21年度に財政健全化法に基づく「財政健全化計画」を策定し、平成21年度をもって、財政健全化団体を脱却した。
本稿では、上記で示した新庄市の財政難を引き起こした5つの要因、①山形新幹線新庄延伸、②相次ぐ公共事業、③広域事務組合、④国営新庄農業水利事業、⑤公共下水道事業を整理し、財政再建の取り組みについて検討する。・・・