コラム  国際交流  2016.11.10

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第91号(2016年11月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 先月訪日した海外の友人達と再会して、『論語』の一節「朋有り、遠方より来たる。亦た楽しからずや」を思い出していた。特に、筆者が得たマスコミ情報に関し、ドイツの友人達から彼等の意見を聴けて喜んでいる。

 例えば、経済誌(WirtschaftsWoche (WiWo))の10月25日付記事「(中国の)アイクストロン買収: 約束は往々にして破られる(Aixtron: Oft werden Versprechen gebrochen)」、またFrankfurter Allgemeine Zeitung (FAZ)紙の26日付記事「ドイツ人の3人に1人がロシアとの戦争を恐れている(Jeder dritte Deutsche fürchtet Krieg mit Russland)」に関して彼等の見解を詳しく聴いた。

 同時に寿司好きの彼等からは、日本の築地に関したFAZ紙の9月12日付記事(「環境リスクの理由から魚市場の移転が凍結される(Wegen Umweltrisiken Umzug von Tokios Fischmarkt liegt auf Eis)」)に関して意見を尋ねられた。

 筆者は次のように答えた次第だ。「簡単な話だよ。君達の国の優れたMax Weber大先生が教えて下さったじゃないか!!--"職務上の秘密(Amtsgeheimnisses)"という名目で、官僚制は"形式的合理性と実質的合理性との二律背反(Antinomie der formalen und materialen Rationalität)"を生起させる、とね。だから新都知事のお蔭でその二律背反が露見しただけだよ」、と。


 先月中旬、北京で開催された国際会議(香山论坛)には世界中から多くの安全保障問題の専門家が集まった。この会議に関しても、各国の友人達から意見を聞くことが出来た。また中国側の報道において、日中関係に関して日頃からご教示を頂く永岩俊道元空将の発言が言及されており、それらを興味深く読んだ。

 例えば10月13日の«新华社»紙の記事「日本側が指摘した中国の東シナ海での国際法問題に関して中国が反論(中方驳斥日本指责中国东海防识区违法)」や«环球时报»紙の記事「香山フォーラムにおいて激論、中国側の専門家が日本の元司令官に反駁(香山论坛激辩海上安全 中国专家驳斥日本前司令官)」等に、永岩氏の発言が米中の専門家と共に言及されている。

 留意すべきは、中国側の(「白髪三千丈」に代表される)巧みなレトリックに対する我々(情報の受け手)の解釈だ。友人達と、「中国情報に関しては、内容について慎重に吟味しなくては」と、中国情報の巧みな修辞に関する研究--豪州国立大学(ANU)の紀豊員教授による著書(Linguistic Engineering («語言工程»))等--に言及しつつ語り合っている。


 米国高級誌(Foreign Affairs)の最新号(11/12月号)は世界中に蔓延するPopulismを特集として取り上げている。米大統領選が終わったとは言え、Populismの昂進は未だ止まっていない。何故なら深刻な経済問題を解決出来ない指導者達に対し、善良な市民が今の"代表民主制の危機(the crisis of representation)"を感じているからだ。こうしたなか、グローバル化に対する不安を掻き立てつつ、"判り易い語り口(plain-spokenness)"を武器に、甘く囁きかけるデマゴーグ達が、「エリートではなく、我々(人民)こそが!」と語りかけている。このためにPopulismは米国だけでなく欧州、更にはアジア諸国等、世界中で観察されている。

 残念なことに、Populismは捉え難い概念・現象だ。Populismに関して、フランス国立科学研究センター(CNRS)の哲学者、ピエール=アンドレ・タギエフ教授は「定義する事の不快さ(Malaise dans les definitions)」と述べ(著書L'Illusion populiste)、また北海道大学の吉田徹教授は得体の知れない「鵺(ヌエ)」的な概念と記している(著書『ポピュリズムを考える』)。

 欧州でのPopulismに関して、ベルリン自由大学のパウル・ノルテ教授は最近「ヒトラー出現直前の革命的とも言える社会不安(eine quasirevolutionäre Unruhe--ähnlich wie in der Vor-Hitler-Zeit)」と、過去との類似性を指摘している。Populismを完全に否定すべきではないが、排他的・攻撃的なPopulismに対しては警戒すべきだ。その意味でノルテ、タギエフ両教授の発言、更にはPopulismを体系的に分析したエセックス大学の故エルネスト・ラクラウ教授の著書(On Populist Reason)等を基に、我々は知的な警戒を怠ってはならない、と考えている。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第91号(2016年11月)