ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2016.10.25

ワーキング・ペーパー(16-002J) 「戦前日本における銀行業の産業組織と産業・企業金融」

本稿はワーキング・ペーパーです

 戦前日本の金融史は幅広く深い研究蓄積を有している。この論文では、産業金融・企業金融における銀行の役割と金融システム・銀行産業組織の特徴との関連に焦点を当ててこれまでに得られている知見を選択的にサーベイし、関連する論点について追加的分析を行う。

 戦前日本の銀行産業は、産業組織と制度に顕著な特徴を有していた。第一にさまざまな規模にわたる多数の銀行が階層的に存在し、銀行の階層性は取引先の企業の階層性と対応関係があった。第二に銀行が企業と取引関係を形成する際に、特定の銀行と少数の特定企業が密接に結びついて集中的に融資をするという、「機関銀行」関係が存在した。この関係は、一方では利益率が低く内部資金に限界がある企業が多額の借入を行うことを可能にしたが、こうした関係は特に小規模の銀行において、銀行の一般株主と預金者にとって望ましい結果をもたらさなかった。

 このような産業組織上、制度上の特徴は1920年代に進展した大規模な銀行退出の波によって変容した。銀行合併は、一面で組織統合のコストをもたらして銀行の収益性にマイナスの影響を与えたが、反面で金融システムを安定化させるとともに銀行の企業統治構造の変化を通じて機関銀行の弊害を緩和した。機関銀行の弊害の緩和には、役員兼任関係を持つ銀行が相対的に高い確率で解散・破産・廃業するという淘汰のメカニズムも同時に寄与した。政策当局は銀行合併が地方から都市への資金流出をもたらすことを懸念して地方的合同を推進したが、その場合でも合併による県内の支店ネットワークの拡大が地域間の資金の再配分を引き起こし、それはさらに地方産業の盛衰に影響を及ぼした。