メディア掲載  外交・安全保障  2016.10.06

核の実戦配備-小型・軽量化進み最終段階の北-

読売新聞2016年9月26日に掲載

 北朝鮮は今年に入り2度の核実験実施のみならず、21回の弾道ミサイル発射実験を行った。北朝鮮の声明によれば今回の核実験で「小型化・軽量化・多種化」された核弾頭を必要なだけ生産できるようになり、「核兵器化はより高い水準」に引き上げられたとしている。北朝鮮が執拗なまでにこうした実験を繰り返す最大の理由は、核兵器の実戦配備を技術的に実証することによって、「核保有国」としての地位を国際社会に認知させることにあるとみられる。

 核兵器を使用するためには、核分裂性物質である兵器級プルトニウム(もしくは濃縮ウラン)を精製し、爆発によって核物質を圧縮させる「爆縮」の正確な技術、運搬手段としての弾道ミサイルに搭載するための小型化・軽量化、ミサイルの弾頭が大気圏に再突入して標的を攻撃できる技術を全て克服しなければならない。また核兵器が抑止力として機能するためには、あらゆる状況下でも相手国に核ミサイルを高精度で撃ち込める能力(具体的には相手国からの攻撃を回避し、ミサイル防衛を突破できる能力)を担保する必要がある。

 これまで多くの政府関係者は北朝鮮の核兵器が実戦配備の段階に至っていない、という見解を表明してきた。核兵器国としての技術の成熟性が疑問視されてきたからである。だが、過去5回の核実験によって核兵器の小型化・弾頭化を実現させた可能性は高まった。また北朝鮮は弾頭の耐熱性技術の確保に熱心に取り組み、最近のミサイル実験では大気圏再突入時の弾頭保護について相当の成果が得られたという分析もある。さらに、相手国に探知されにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、移動式発射型ミサイルの実験、ミサイル防衛で迎撃を難しくさせるノドンミサイルの連続発射実験など、攻撃手段の多様化と高精度化を同時に追求している。客観的にみて北朝鮮の核兵器の実戦配備はほぼ最終段階にある。日本を含む北東アジア諸国にとり、より現実的で差し迫った脅威が出現していることを軽視すべきではない。

 北朝鮮は今後も核実験とミサイル技術の能力向上を図り「核保有国」としての地位を自他共に認める状況を追い求めるだろう。仮に北朝鮮が、米国や韓国に対する抑止力を確保したという認識を一方的に持った場合、地域における小・中規模の軍事的挑発行為をむしろ誘発する可能性も高まる。また北朝鮮はかつての6か国協議の共同声明で謳われた非核化の約束を反故にし、「核保有国」としての地位を楯に新たな協定を模索する可能性が高い。北朝鮮の核兵器が実戦配備されることは、北東アジアの戦略環境をいっそう厳しくすることは確実である。