メディア掲載 国際交流 2016.09.27
先月末、分厚い書籍が筆者のもとに届いた。それは6月にドイツから出版されたロボット技術に関するハンドブックの第2版で、ナポリ大学のブルーノ・シチリアーノ教授とスタンフォード大学のウサマ・カティブ教授が編者となってまとめられた本だ。同書の第1版は2008年5月に出版され、米国出版協会(AAP)から、数理科学・物質科学部門における最優秀図書として高い評価を与えられている。
第1版が出版された時から現在に至るまで、ロボット技術が機能面で飛躍的に進歩し、また適用分野が急激に拡大したことを背景として、第1版の1,611ページから第2版の2,227ページへ一段と厚いものとなっている。
勿論、筆者の関心領域と理解出来る分野は限られているから同書の全てを読むわけではない。しかし、同書を手元に置き、更に新しい論文と向き合い、また最先端の研究を行っている内外の技術者と情報交換をしたいと考えている。
最近はロボットという言葉が話題にならない日がない程、ロボット・ブームを迎えている。以前から普及率の高かった製造業に加え、近年は非製造業においても、建設ロボットや運搬ロボットを筆頭に様々な応用が試みられている。そうした応用分野のなかでも、筆者は、人口の高齢化を背景とする介護サービス分野に適用されるロボットとそれ普及させる付随的サービスの拡充に不可欠な制度的改革に強い関心を抱いている。
周知の通り、我が国の高齢化に伴う介護サービス需要は日を追うごとに増大しており、政治経済的制度改革と共に、ロボットをはじめ技術面での改良が急務となっている。また介護ロボットは、応用分野の中でも人とロボットのインターアクション(HRI)に関して高度に洗練された技術を必要とし、我が国の優秀な研究者が取り組むべき課題の一つとなっている。
すなわち、ロボットが相手とするのは認知症等を患い、自らの意思や要求を正確には伝達出来ない場合が大多数を占める高齢の被介護者であり、またそうした被介護者を、根気良く世話する介護労働者なのだ。こうした理由から課題は山積しているが、それだけにチャレンジする価値も非常に高いといえよう。
最近の調査によれば、多くの場合、介護労働者は複数の被介護者を同時に世話する必要に迫られており、そのために精神的・肉体的に常時疲労感を感じている。しかも、そうした困難な環境下に置かれているにもかかわらず、彼らは経済的には恵まれない給与条件で働くことを余儀なくされている。このため介護サービス業は常に人手不足となり、また高い離職率に悩まされ続け、特に、需要が増加する訪問看護サービスに対し、対応できない状況に置かれているのが現状である。
こうした高齢化は必ずしも我が国だけに限らない。日本ほど深刻になっていないとはいえ、欧米先進国、更には韓国やシンガポール等の近隣アジア諸国も、高齢化に伴って介護サービスにおけるロボット技術がいずれ必要となることは間違いない。従って介護ロボットは我が国の新たな成長産業として「地の利」を生かすことができる分野なのだ。
また被介護者を丁寧にあつかい、同時に介護労働者が操作・管理し易い介護ロボットを、迅速かつ安価、しかも大量に開発・製造するには、どうしても規模の経済性と共にグローバル・ネットワークが必要になる。そして、このヴァリュー・チェーンが形成される際、主動的役割の一端を我が国のロボット産業が担うことが期待されているのだ。