メディア掲載  財政・社会保障制度  2016.06.14

企業版ふるさと納税:試される自治体の発案力

2016年6月1日 熊本日日新聞 掲載

 ―企業版ふるさと納税がスタートする。政府の狙い通り地域創生を後押しするだろうか。

 「夏ごろに対象事業が決まるので当面の評価は難しいが、二つほどハードルがあると思う。まず既存の寄付税制における規模を上回れるかどうかだ。国税庁の統計では2014年の企業による寄付額は約7千億円に上る。これだけの寄付が既になされているので、企業版ふるさと納税のために企業が新たに寄付を増やさずに、これまでの寄付先の分を回すことも考えられる。食い合いが起きるかもしれない。企業は業績や認知度向上などのメリットがあるかどうかで判断するだろう」

 ―もう一つのハードルは。

 「軌道に乗るまでにある程度時間がかかるかもしれないということだ。08年に始まった個人版ふるさと納税は自治体からの返礼品競争の過熱ぶりが注目されているが、このような現象はここ2、3年だ。企業版も軌道に乗せるまでには一定期間、手探りの状態が続くのではないか」

 ―早期に軌道に乗せるための課題は。

 「モデルケースを作り出せるかどうかだ。自治体には本当に地域創生につながる計画を策定できるかどうかという点で発案力が試される。これまでの地域活性化策は、特産品開発やゆるキャラの創案、観光など横並びになってしまった印象が強い。横並び感覚を打破できるかどうかが重要だ。横並びにさせないためには、対象事業を審査しゴーサインを出す国にもセンスが問われる」

 ―自治体の発信力、売り込みも課題では。

 「制度上、企業の本社を置く自治体には納税できないので、自治体と企業のマッチングが難しい。創業地や支店支社の枠を超えて企業数を増やせるかどうかだ。さらに産業振興策の一環として企業誘致を進めている自治体もある。自治体の方向性を明確にするため、対象事業の立案では、既存の企業誘致策や地域振興策との兼ね合いを考える必要もあるだろう」

 ―個人版ふるさと納税の経験からの教訓は。

 「税制を利用した地方特産品通販のような側面はあるが、税は取られるものだという意識から、自主的に選択して納めるという考え、さらには参加意識が国民の側に生まれたことは大きい。自治体側も特産品などを掘り起こし、これまで気づかなかったそれぞれの地域が持っている良さを認識し、プライドの確認ができたと思う。工夫次第で価値が生まれるという自信が生まれた」

 ―自治体は企業版で個人版より安定した財源を確保できるのでは。

 「個人版では各地の返礼品に目移りし、毎年納税先を変えてしまう人がいるかもしれない。カタログショッピングのような感覚でいろいろ試そうとする人はいるだろう。企業版では返礼品がないので、個人版よりは安定度は高いかもしれない。寄付税制で7千億円規模の実態があるということは、もともと企業には社会や地域に貢献しようとする意識があるということだ。一方で企業活動の業績や景気に左右される側面もある。企業の知名度向上などメリットと比較検討してやめてしまうこともあり得る。継続性が必ずしもあるとはいえないのではないか」