メディア掲載 国際交流 2016.05.24
オバマ大統領による歴史的な広島訪問を直前に控え、筆者を含む日本国民には様々な感慨が湧き上がってくる。広島・長崎への原爆投下、更には東京をはじめ太平洋戦争末期の本土空襲に深くかかわったのが、カーチス・ルメイ将軍だ。そして同将軍の名前を冠した研究所が米国アラバマ州のマクスェル空軍基地に存在する。
4月下旬、このカーチス・ルメイ・ウォーゲーム・センターの指導で、CIAやFBI等の政府関係者とゴールドマン・サックス等の民間専門家が軍関係者に混じり、2日間のサイバーセキュリティに関するシミュレーション・ゲーム(模擬訓練)に参加した。
米国空軍の発表によれば、第1日目にサイバー空間における3種類の危機を想定して模擬訓練が実施された。すなわち①電子金融取引、②電力系統、そして③交通インフラに対するサイバー攻撃である。第1日目の訓練によって判明したことは、サイバーテロに直面した政府や金融機関等が対応に忙殺され、各組織が孤立した状態に陥り、情報共有がなされず共同での危機対応が出来なかった問題だ。
この教訓を踏まえて、第2日目には組織間での情報共有を念頭に模擬訓練を実施したところ、社会全体で甚大な被害が発生する前に事態の収拾が可能となった、と関係者は報告している。こうしてサイバー空間で新たに発生する危機には、サイバー空間の長所を利用して個人・組織間でのコミュニケーションを密にした解決策が有効であると判明したのである。
以上のような海外でのサイバー空間における"光と影"を考えた時、我々はこうした事態を「対岸の火事」として傍観することが果たして許されるであろうか。グローバル化が深化するに従い、海外で発生した多種多様な危険が我々の生活の中に、密接かつ「青天の霹靂」のごとく突然襲来する時代を迎えていることは誰も否定しまい。
私事で恐縮だが、昨年11月末、米国系ホテル・チェーンにおいて個人情報流出が発生し、クレジットカード会社から筆者のもとへ、カード使用停止と再発行の連絡が入った。再発行の手続き完了で安心したのも束の間、カード番号を登録している新聞・雑誌、更にはネット販売会社から「電子決済が出来ません」という通知を次々に受け取った。このため新規カードの到着まで不自由な生活を余儀なくされ、筆者の日常生活に深く浸透している電子決済が利便性と共に危険性もはらんでいることを痛感した次第だ。
サイバー空間での危険性が高まるなか、本年2月、オバマ大統領はサイバーセキュリティ強化委員会設置に関する大統領令を発し、また先月にはサイバーセキュリティ行動計画(CNAP)を発表した。同委員会の委員長には大統領補佐官を務めたトム・ドニロン氏が、副委員長にはIBMのCEOを務めたサム・パルサミーノ氏が就任し、官民挙げて安全性強化に取り組む米国の姿勢がうかがえる。
サイバー空間での危機は、国境や業種を超えて広がるため、こうした米国、更には他の諸国の動きに呼応した形で、日本の対応が求められているといっても過言ではない。
最近来日したノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツ教授は、サイバーセキュリティを含むグローバリゼーションに絡む問題に関して次のように述べている--問題はグローバリゼーションにあるのではなく、それをどのように進めるかが問題なのだ、と。我々は今後一層グローバルな視点から解決策を探らなくてはならない時代を迎えている。