メディア掲載  財政・社会保障制度  2016.05.12

税の決め方どうあるべきか-無関心と説明不足、悪循環-

2016年5月2日朝日新聞に掲載(承認番号:18-3917)

 税理士として毎年、市民向けに確定申告の無料相談に応じています。性別や年齢、所得にかかわらず、ほとんどの人が「税は納めなければならないもの」と素直に思っているようです。脱税を企てる人もいるのかもしれないけれど、源泉徴収のサラリーマンを含め、大多数の日本国民は良識のある納税者だと思います。

 ただ、その素直さが、税制の決定を「お上」に任せてしまおうとする姿勢につながっていないでしょうか。税金を言われるがまま払っていれば、何かあったときに国が助けてくれる。そんな、かつての「お殿様と良民」みたいな意識が根強くあるように感じます。

 税制が、政治家や官僚、業界の都合だけで決まってしまいがちなのは、そうした納税者の側の意識にも原因があるように思います。納税者の関心が薄いため、政府や与党も厳しい財政事情などについて説明を尽くそうとしなくなる。ますます納税者は関心を持たなくなる。そんな悪循環に陥ってしまっています。

 税金を納めるということは、税制の決め方や税の使い道について、政府に十分な説明責任を求めることとセットのはず。政府に説明を求めると同時に、納税者の側も税金の仕組みを理解し、自分の意見を言う。こうした双方向のコミュニケーションがなければ、民主主義は育ちません。

 コミュニケーションを進めるためにも税制は分かりやすいものである必要がありますが、実際には、役所や業界の複雑な利害もあって分かりやすい税制になっていません。それがなぜなのか、どうしたら改められるのか。そうしたことをふつうの人たちが議論するプロセスをもっと大事にするべきだと思うのです。

 教育も重要です。国税庁は税務署や税理士会から講師を派遣する「租税教室」のような取り組みも進めてはいますが、納税者が自ら考えるための租税教育としてはまだ不十分です。

 負担を分かち合うことが不可欠な高齢化社会だからこそ、税制については正確な知識を土台に民主的に議論し、みんなで決めたことを確実に進めていくことが大切だと思います。


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