メディア掲載  国際交流  2016.03.11

ロボット普及は「両刃の剣」

電気新聞「グローバルアイ」2016年3月9日掲載

 人工知能(AI)やロボットなどの先端技術に関して様々な情報が溢れている。果たして技術は人類を幸福にするのか、それとも不幸にするのか? 確実に言える事は、成果が利用する人々の知恵と利用目的に依存するという理由から、技術は「両刃の剣」だということだ。

 2月22日、オバマ大統領が議会に提出した経済報告書に、ロボットに関する分析が初めて掲載されたと米国の友人から連絡を受けた。報告書は最新の研究に基づき、ロボットが雇用に与える影響を分野・職種に分けて、やさしく解説している。結論として、総体的・長期的に技術は人々を幸福にするが、現実にはロボットを導入し生産性を高める職種と、そうでない職種が混在する。そうでない場合、ロボットの普及で職種が縮小・消滅し、労働者が別の産業・職種に速やかに転職しない限り、短期的にはケインズが語る「技術的失業」が発生する。このため、報告書ではロボット技術による"負の影響"を防ぐ柔軟性・強靭性を労働者に習得させる目的で、教育の必要性を強調している。かくしてヒト・モノ・カネ、更には技術を含む情報が、またたく間にグローバルに移動する現代において、ロボット技術により縮小・消滅する職種を多く抱える国々は、不安を抱えつつ経済・公共政策の再編を迫られている。

 ロボットの普及が惹起する不安は失業だけではない。国際政治においてもロボットは様々な問題を提起している。例えば、老人を助ける介護ロボットを、軍事目的へと巧みに転用すれば、見事なほどに殺人兵器に変わってしまう。こうして多くの先端技術は軍民両用に活用出来るがゆえに、国際政治の専門家であっても、長足の進歩を示す技術の動向から目が離せない。

 これに関し対米外国投資委員会(CFIUS)が2月19日に公表した報告書を巡り、米国の友人たちと情報交換を行っている。在米企業の買収を外国が試みた際、安全保障の視点から当該取引を審査し、必要とあらば大統領に進言し、阻止するのがCFIUSの役目だ。近年は米中間の緊張が高まったために、米国内の企業・高等研究機関から中国に漏出する技術に対し、米国側が神経を尖らせている状況が常態化している。そして最近の審査状況(358件)をみると、国籍別で最も多い審査対象国は中国の68件だ。

 直近の事例として、1月、北京のプライベート・エクイティ・ファンド(金沙江創業投資基金)は、オランダのフィリップス社保有の在米子会社(LEDを製造するルミレッズ社)の買収を断念した。また2月、北京の清華大学系紫光集団も、IT企業のウェスタン・デジタルへの出資を断念した。これは共にCFIUSの審査に直面して、取引を中断したものだ。過去においても、中国海洋石油、西色国際、更には華為技術などが米中間のM&A上の問題となっている。

 繰り返しになるが先端技術は光と影の両面を有し、人類を幸福にも、また不幸にする「両刃の剣」なのだ。従って知恵を働かせ、その利用目的を"正の影響"の方向に絞り、また"負の影響"を防ぐ対抗策を案出することが枢要である。

 産業用ロボットでリードした日本は今後、老人に優しく、介護者が操作し易いロボットや、燃費が良く、安全性の高い自動運転が可能なロボットカーなど、非製造・サービス分野でも牽引役となるべく期待されている。と同時に、日米中3ヵ国の指導者は経済発展のため、平和的な政治環境の構築に対して責任を負うことを自覚する必要があるのだ。