コラム  国際交流  2016.03.04

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第83号(2016年3月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 オバマ大統領が2月22日に議会提出した経済報告の中でロボット技術が触れられていたが、「報告書("Economic Report of the President")の中にロボット技術の分析が載ったのは初めて」との米国の友人達から連絡が届いた--同報告書には、小誌昨年7月号で触れたMITのディヴィッド・オーター教授が著したロボットと雇用の関係に関する3つの論文が参照されている。今月は、軍民両分野に適用可能な技術(dual-use technology)の一つであるロボット技術に関して幾つかの資料を記載した(2の"Robot Wars"や"Why the U.S. Needs A New, Tech-Driven Growth Strategy"等を参照)。またロボット技術の根幹を成すAIに関して、オックスフォード大学で科学技術的な哲学研究を行っているルチアーノ・フロリディ教授の小論("Artificial Intelligence and Robotics")も興味深い。こうした先端技術に対する期待が高まると共に、技術適用に関連した倫理や雇用といった社会的影響について、内外から様々な情報が次々と飛び込んで来る。昨年、ロボット技術の"光と影"に関し包括的な調査を実施した欧州の研究者は、プライバシー問題や国際的法整備の必要性を詳述している(Royakkers and van Est, Just Ordinary Robots: Automation from Love to War, CRC Press, Sept. 2015)。そして今、重要なのは何といってもグローバルな情報交換だ。

 中国社会科学院(世界経済与政治研究所)の薛力氏がFinancial Times紙(中国版)に発表した南シナ海関連の小論の標題(2を参照)、また先月の王毅外相訪米の際にネットで流れた情報には、『三国志演義』に出てくる表現が数多く使われている(例えば劉備と項羽の「鴻門の宴」や諸葛孔明の「舌戦群儒」等)。欧米の友人達には馴染みの薄いこうした成語を、彼等に馴染みの深い『ペロポネソス戦史(The History of the Peloponnesian War)』に出てくるペリクレスの演説になぞらえて語る事は筆者の喜びの一つである。しかしながら、戦史にまつわるロマンに心を奪われるあまり、現在の緊張した国際関係を冷徹に考えられないようでは、本末転倒な事態を招きかねない。世界各国の民族が時代を超えて抱くロマンチシズムとナショナリズムは、それ自体大切なものであり、尊重すべきではあるが、それらに流されて単なる感情論に堕することは非常に危険な事である。

 敗戦後のドイツで強力なリーダーシップを発揮し、独仏融和に尽力したアデナウアー首相は、『回想録(Erinnerungen 1945-1953)』の中で、ナチス下のナショナリズムを"欧州における癌の傷(der Krebsschaden Europas)"と呼んだ。ハーバード大学のドルー・ファウスト総長も、自著(The Creation of Confederate Nationalism: Ideology and Identity in the Civil War South, 1988)の中で、米国南部連合のナショナリズムは「感情的には或る程度は理解出来るが、国際政治・世界史の視点から冷静に判断すれば普遍性を欠く」と批判した(小誌では過去に、陸奥宗光が『蹇蹇録』の中で、またワシントン大統領が「告別演説」の中で語った排他的愛国的感情に対する警告に触れた。2012年11月号(No. 43))。また1月末に中国の研究者(鳳凰国際智庫の李江氏)がFinancial Times紙(中国版)に発表した小論は、中国的特色を持つ現在のナショナリズムの中に潜む諸問題に触れており、非常に参考になる(2の"'中国特色民族主义'的弊端")。我々も、優れた指導者同様に極端な感情論に惑わされないようにしなくてはならない。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第83号(2016年3月)