コラム  外交・安全保障  2016.02.10

南スーダン国連PKOと能力構築支援の連携を

 2016年1月末に、日本政府は、南スーダンの国連PKO(UNMISS)に派遣されている自衛隊部隊の派遣期間を本年10月末まで延長する旨決定した。平和安全保障法制が成立した後の議論の焦点は、派遣期間延長に際して実施計画を見直し、武器使用基準を緩和するとともに、所謂「駆けつけ警護」を任務に付与するかどうかだった。恐らくは参議院選挙を控えた内政事情を考慮し、「駆け付け警護」の任務付与の検討も含め、議論は10月末まで持ち越されたのだろう。この延長期間こそ、新たな安保法制の下で日本がどのように国連PKOに参画するかの議論を深めるべき時ではないだろうか。


 本件については以前のコラム「平和安保法制成立:現代の国連PKOに自衛隊はどう参加するのか」でも触れた。改正国連PKO法案の議論で焦点となったのは、前述の武器使用基準の緩和と「駆け付け警護」だったが、その他にも同法は多様な現地政府機関への教育訓練の実施を盛り込んでいる。それらは大まかに言えば、①刑務所の運営の支援、②国会、行政府、裁判所への支援(助言・指導)、③軍隊の設立と再建の支援、の3点だ。


 南スーダンは今も国家建設の途上にあり、統治機構や国防・治安組織を確立することが決定的に重要である。とりわけ③の「軍隊の設立と再建」が実現すれば大きな意義があるだろう。南スーダン国軍は、スーダンからの独立紛争などを戦ってきた民兵・武装集団であるスーダン人民解放軍(SPLA)が、南スーダンの独立後、ほぼそのまま国軍となったものだ。現大統領のサルバ・キール自身、SPLAのトップ(議長)であった。スーダンとの国境紛争だけでなく、2013年12月に発生したリエク・マシャール副大統領(彼もSPLA司令官であった)派によるクーデター未遂とその後の国内騒乱は、政治権力や経済利権を巡る争いであるとともに、SPLA内の民族対立(大統領:ディンカ族、副大統領:ヌエル族)も一つの原因だ。言い換えれば、SPLAの趨勢は南スーダンの安定の鍵を握っている。SPLAが民兵マインドを残存させたまま対立の温床となり続ければ、南スーダンの安定は根底から脅かされることになる。このSPLAに対し、UNMISS派遣自衛隊部隊が、文民統制という近代軍の根幹を教育し、国民を抑圧する軍隊ではなく国民を守る軍隊へと組織改革するための支援ができれば、南スーダンの紛争予防に大いに資するだろう。


 国軍への支援という観点からは、防衛省・自衛隊は近年、「能力構築支援」と銘打って発展途上国の軍への教育訓練に力を入れている。その目的は「支援対象国が自ら国際安全保障環境の安定化・改善に貢献すること」とされている。これは前述のSPLA改革支援の意義とも重なるものだ。例えば、自衛隊の参加する国連PKO派遣部隊が、まず「軍隊の設立と再建の支援」を実施し、その後のPKO部隊撤退時には「能力構築支援」を使って支援を引き継ぐことなどが考えられよう。これら2つの取り組みを活用し南スーダンに継続的・効果的な支援を行ってはどうだろうか。現在UNMISSに派遣されている自衛隊の施設部隊が、SPLA工兵部隊の設立支援を行うことは、法的にも能力的にも問題はない。しかし、現時点で日本政府部内では、国連PKO法による取り組みにせよ、能力構築支援によるものにせよ、SPLAに対する教育訓練が検討されている様子はない。


 自衛隊の国連PKO派遣をめぐる現在の国内の議論は新たな実施計画に対する「駆けつけ警護」の付与に傾きすぎてはいないだろうか。残念ながら、現在の議論は、総合的な南スーダンの平和支援についての検討が少なく、バランスを欠いたものだ。もちろん、能力構築支援や国連PKO派遣は万能ではないし、何でもやれば良いというものでもない。しかし、南スーダンではSPLAの動向が今後の国家建設の鍵を握っている。国軍の教育訓練は、これまで日本が得意としてきたODAの支援では実施不可能な領域に属する。この分野は防衛省・自衛隊でしか支援できない。南スーダンPKOでの駆け付け警護の話が先延ばしにされた今は、自衛隊を用いた日本の国際協力の姿を、軍に対する教育訓練の可能性も含め、冷静に問い直す良い機会ではないだろうか。