論文  財政・社会保障制度  2015.12.21

財政再建への道のりーどん底からどのように抜け出したのか<青森県黒石市:身の丈以上の大盤振る舞い>

『地方財務』(株式会社ぎょうせい)2015年12月号に掲載

はじめに

 8回目は青森県黒石市を取り上げる。黒石市は青森県のほぼ中央に位置し、三方に津軽平野、東に八甲田連峰が連なる豊かな自然と豊富な温泉に恵まれた城下町で、最近では「黒石焼きそば」や「つゆやきそば」がB級グルメとして人気である。
 黒石市は平成20年度決算において、観光施設事業特別会計、温泉供給事業特別会計、下水道事業会計の資金不足比率が9,308.1%、1,417.3%、515.1%となり、経営健全化基準の20%を大きく上回ったため、経営健全化計画策定の対象となった。特に観光施設事業特別会計の9,308.1%は全国最下位の異常値であった。このような数字となったのは、国民宿舎特別会計の事業廃止の際の累積赤字を観光施設事業特別会計に付け替えたことによる。温泉供給事業特別会計については、低い料金設定と高いランニングコストによる長年の赤字の蓄積からきている。下水道事業会計については、国の景気対策に呼応して平成3年度から平成10年度にかけて積極的に事業を行ったことが主要因である。それに加え、相次ぐ普通建設事業による公債費増加により一般会計が逼迫していたため、必要額の一般会計繰入金を捻出できなかったことや、高い落札率により事業費が膨らんだことなども要因に挙げられる。
 黒石市は、前々市長時代の平成元年度から平成11年度にかけて、黒石病院の新築(平成元年度から平成3年度、総工費48億円)、脳神経外科専門病棟の新設(平成8年度から平成10年度、11億6000万円)、落合大橋建設を含む温湯板留線整備(平成2年度から平成7年度、14億4000万円)、総合スポーツ施設のスポカルイン黒石の建設(平成5年度から平成7年度、38億9000万円)、津軽伝承工芸館の建設(平成9年度から平成11年度、31億6000万円)などの大型事業を推進し、市債残高が膨らんでいた。
 平成15年度決算の累積赤字は一般会計が7億6000万円であった。特別会計では、下水道事業が9億9600万円、観光施設事業が3億1500万円、温泉供給事業が2億500万円、姥懐霊園墓地1億400万円、西十和田ユースホステル8800万円と、一般会計と特別会計の合計で約24億6800万円であり、市立黒石病院の累積赤字の32億6700万円を合わせると57億3500万円となっていた。その他に土地開発公社の負債が25億8000万円あった。12市町村による津軽南地域市町村合併法定協議会の空中分解の一つの要因に、この黒石市の巨額の財政赤字があり、そのため、黒石市はどの市町村とも合併できなかった。
 黒石市はこの財政状況を放置していたわけではない。前市長が就任した平成10年度には一般会計の赤字が8億6097万円に上り、財政調整基金、減債基金とも底を突いていたため、平成11年5月に「財政非常事態」を宣言した。財政再建を最優先課題に掲げて、退職者補充の抑制などの人件費削減、3か年で25%の経常経費削減、補助金10%削減などの取り組みに着手した。アクアリゾートパーク整備計画や教育の森構想などの大規模事業は凍結した。特別職と職員、市議の給与・報酬削減、市議定数削減、津軽伝承工芸館の指定管理、市民文化会館の休館なども行った。最大で9億5700万円あった一般会計の赤字は、平成20年度には黒字に転換したが、3つの地方公営企業の特別会計が健全化法に抵触した。
 黒石市は、さまざまな公共施設の建設や低い料金設定、高い落札率など、市民に対する身の丈以上の大盤振る舞いにより自らの財政を苦しめたといえる。本稿では、黒石市のさまざまな要因によって引き起こされた財政難と財政再建について詳細に検討する。...


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青森県黒石市:身の丈以上の大盤振る舞い