コラム  国際交流  2015.12.03

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第80号(2015年12月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 Globalizationを反映してモノとカネそして情報が世界を駆け巡る中、グローバルに活躍する人材の獲得・育成方法を様々な組織(企業や公共機関、更にはNPO)が模索している。こうした問題意識を背景に、11月25日、弊研究所で「グローバル人材の本格的活用法」との標題でセミナーを開催した。当然のこととして完全無欠の対策(silver bullet)など存在しないため、セミナー後も継続的に内外の友人と意見交換を行っている。確かに様々な事象をグローバルな視点から考える時代が到来したが、必ずしも全員がグローバルに行動する必要はないと考えている。殆どの人々は自らの能力に従い、特定の地域・分野を中心に行動していて良いのだ。だが、パリでのテロ攻撃が日本をも揺り動かす時代には、誰もが"何らかの形"で全地球的に繋がっている事を銘肝(メイカン)する必要がある。このグローバル時代の繋がりを、英国の国際政治学者バリー・ブザン教授は"乱雑な連結関係(promiscuous interconnections)"と呼び、この繋がりを通じ全世界は"非同期的相互作用を伴う(asynchronous and interactive)"形の転換期を迎えていると近著の中で述べている(The Global Transformation: History, Modernity and Making of International Relations, Cambridge University Press, Feb. 2015)。加えて学術的専門化(academic specialization)が極端に狭隘な形で進行した結果、多くの専門家が困難な壁に直面している点を問題視している(これに関し、米国のテトロック教授による分析(Expert Political Judgment)は秀作である)。従って我々はglobal talent--"蛸壺"的専門家の性癖を避け、広く政治経済社会の情勢にも目を配り、分析(analyze)能力に加え統合(synthesize)能力を持つ才人--を選別・育成し、更にはそうした多才で多彩なglobal talentのネットワークを取り込む組織を編成する努力をすべきである。

 さて11月中旬の中国出張中、シュミット元ドイツ首相の訃報が届いた。親密な中独関係を反映してか、漢訳版の首相の本が昨年数多く出版された--例えば回顧録(«大国和它的领导者»; Menschen und Mächete)や国際関係の将来展望(«未来强国»; Die Machte der Zukunft)等。若い頃の首相は大学の卒論で取り上げる程、知的好奇心を日本に抱いたが、後年は日本から中国へと彼の関心が移り、それを筆者は残念に思っていた。また彼が首相在任中の駐中ドイツ大使エルヴィン・ヴィッケルトは、美術や哲学にも造詣が深く、退官後にドイツ作家協会会長に就任した優れた人で、若い頃(大戦中から敗戦直後の1941~47年)に日本に滞在した人だ。彼の回顧録(Mut und Übermut)を読んで驚いたのは、以前も小誌で触れた日独同盟の内容の希薄さである(No. 72 (本年4月号)参照)。大使は「戦時中、政治的計画については言うまでも無く、軍事的計画にさえ一度も両国間の真剣な対話はなされなかった(Während des ganzen Krieges hat nie eine ernsthafte gemeinsame Beratung über militärische, geschweige denn über die politische Planung stattgefunden)」と記している。彼の記述が正しければ、同盟締結時、盛大な祝賀会が東京で頻繁に開催されたにもかかわらず、それらは形式的で信頼関係を醸成するだけの内容が伴っていなかったことになる (確かに、日独の首脳は一度も会っておらず、ドイツの対ソ開戦も、ベルリン駐在の帝国陸軍武官でさえ寸前まで知らされなかった)。翻ってチャーチルとルーズヴェルトとは大戦中、電話・電報で殆ど毎日交信し、首脳会談を12回も行い、しかも両国の幕僚は、戦略・作戦面での連絡を時折対立しつつも綿密に取り合っている。かくして歴史は、我々に外国の人々との関係を、形式に囚われず信頼出来るものにすべきだと教えている。


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