メディア掲載 財政・社会保障制度 2015.11.10
世界が注目する日本の高齢化の行方
筆者は、本月報が発行される直前の2015年10月上旬、カタールの首都ドーハで開催される国際医療政策学会で高齢化が各国の医療制度に与える影響に関するシンポジウムのパネリストに指名された。これは、世界で最も高齢化が進行している日本の近未来におけるセーフティネットのあり様に対する海外からの関心が高いことの表れである。
高齢化が一国の経済の活力や社会保障制度改革の柔軟性に与える影響を測る指標として、従属人口指数が注目されている。同指数は、分子を14歳以下人口と65歳以上人口の合計とし、分母を彼らの生活を支える15歳から64歳の人口とすることで算出される。この値は低いほど好ましい。図表1のとおり、バブル経済崩壊直前の1990年時点では、先進諸国の中で日本が最も低く好条件であった。しかし、その後の「失われた20年」の間に日本の指数だけが急上昇、2013年時点で62になった。
問題はその後である。日本の同指数が将来どうなるかは、国立社会保障・人口問題研究所が作成した「日本の将来推計人口(平成24年1月)」によりほぼ100%の確率で予測できる。日本の従属人口指数は2050年に94と100に近づくのである。これは、勤労者一人で子供・老人一人を養わなければならない社会になるということである。したがって、現在の年金制度や医療・介護制度のように負担・給付のバランスが高齢者に有利な仕組みは維持できるはずがない。しかも日本の一般政府債務残高(国と地方自治体の借金合計額)が名目GDP に占める割合は、2014年12月末時点で246%と未曽有の水準にある。経済破綻しているギリシアの値が177%(IMF(国際通貨基金)による推計)であることを考えれば、日本が異常事態にあることは誰の目にも明らかである。
経済学によれば、この割合を引き下げるための必要条件の一つは、名目GDP 成長率が長期金利を上回り続けることである。これは、日本経済がデフレから完全に脱却しない限り難しい。
もう一つの必要条件は、消費税率引き上げである。しかも、高齢者が医療を受けた時の自己負担割合を現在の10%から現役世代と同じ30%に引き上げるなどして、社会保障制度における高齢者負担を高めたとしても消費税率を20%以上にする必要がある。しかし、安倍政権は2015年10月に8%から10%に消費税率を引き上げることを見送った。これにより、日本政府の財政再建の本気度が海外から疑われている。2017年4月に消費税率引き上げを行わなければ政権崩壊を招くため、景気がよくなっていなければ、2020年の東京オリンピックを大義名分に国債発行による大盤振る舞いを行うことが予想される。しかし、それは財政再建の放棄とみなされ、国債価格の暴落→金利上昇の引き金を引くことになりかねない。・・・