論文  財政・社会保障制度  2015.11.04

個人住民税特別徴収の徹底化と今後の展開

CUC View&Vision No.40 に掲載

はじめに

 本稿では、地方自治体の税務職員が減少する一方で、税務業務の業務量は増加傾向にあるという現状をふまえ、税務業務の生産性向上策として、個人住民税の特別徴収の徹底化の必要性を述べる。
 地方税の賦課徴収を行う自治体の税務職員は年々減少している。1990年には、都道府県と市町村合わせて84,889人の税務職員がいたが、バブル崩壊後、新規採用を控えた自治体が多く、団塊世代の退職も重なり、2013年には71,189人まで減少した。国税庁の職員数をみると、自治体とは反対に、1990年の55,029人に対して、2013年は55,586人と増加傾向にある。
 昨今の自治体の税務部門では、納税者や滞納者に対する通常の賦課徴収業務だけでなく他の業務も増えている。2015年4月より開始された生活困窮者自立支援業務がその一例である。この業務では、生活困窮者の自立支援を促進するために、必要に応じて税務データを提供し、相談に応じる役目を担う。2015年10月にはいよいよマイナンバーが通知され、税務業務に活用されることが決まっている。マイナンバーが稼働すれば、税務データの重要性が高まり、税収確保のためのデータの捕捉のみならず、行政の基幹情報としてより精緻な情報把握が必要になるなど、業務はますます増えるだろう。
 少子高齢社会が進む中、自治体全体でみても、職員が徐々に減少しており、自治体はどうしても効率的に成らざるを得ない。今後はいかに業務の生産性を上げるかが重要となる。このような状況において、個人住民税の特別徴収は原則であるにもかかわらず、7割程度しか達成されていない。この個人住民税の特別徴収制度は、事業者が従業員に代わって納税する仕組みで、事業者の多少の事務の負担は増えるが、従業員にも事業者にも、そして自治体にもメリットのある効率的な制度である。特別徴収は毎月給与から天引きされるので、1回あたりの納税額が小さく、従業員が自ら金融機関や窓口に赴く必要もなくなるため、納付忘れや滞納を防止できる。事業者にとっても、特別徴収することで、従業員の負担を減らすことができ雇用維持につながる。自治体にとっても徴収増が見込め、それぞれにメリットがある。2007年度に三位一体改革として個人住民税の税源移譲がなされ、個人住民税は地方税の中で重要性が高まっている。マイナンバーが導入されれば、より一層効率化が図れるため、特別徴収を推進しないのは非効率である。
  そこで本稿では、個人住民税の特別徴収の現状と課題をふまえ、徹底化を図るために安芸市の強制指定の事例を紹介し、今後のさらなる進展を検討する。

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