メディア掲載  グローバルエコノミー  2015.10.13

消費税、TPP、コメめぐる国民不在の政治

「金融財政ビジネス」 (2015年9月28日号掲載)

 消費税の議論が迷走している。軽減税率は中小事業者への配慮から、低所得者への交付金は選挙対策からそれぞれ見送られ、消費者に負担の大きい消費税還付制度が提示された。飲食料品の消費税を2%安くする裏側で、主食であるコメの値段を10%以上引き上げる政策が推進されている。これを問題視する政治家はいない。根底にあるのは、低所得者や弱者に対する関心を持たない、日本の政治心理である。



消費税還付という仁政?

 消費税については、〝逆進性〟が問題とされてきた。所得の低い人も高い人も、生きていくためには、飲食料品を消費しなければならない。飲食料品は必需品の最たるものである。

 しかも、胃袋の大きさ、飲食料品の消費量は、所得の低い人も高い人も同じである。所得の高い人は、食べる量が同じであっても、贅沢な食材を使ったり、高級レストランに通ったりするかもしれない。しかし、可処分所得に占める飲食料品支出の割合は、貧しい人に比べ、圧倒的に少ない。年収1000万円の人の月収は、83万円である。家族全体の飲食料品の支出が20万円として、消費税が5%から10%に上がることによって、飲食料品に1万円追加的に支出しなければならなくなるとしても、負担感はない。

 これに対して、パートで生計を立てている月収15万円の人にとって、アパート代7万円、飲食料品支出4万5000円(1日当たり1500円) を引くと、残るのは3万5000円しかない。収入が上がらなければ、5%から10%への消費税増税によって、これは3万円に下がる。これから、衣料代、職場への交通費、携帯電話などの通信費、医療費、年金などの公租公課を負担しなければならない。しかも、衣料代や交通費等にも10%の消費税はかかってくる。

 つまり、所得に応じて累進的に税率が大きくなる所得税に比べ、所得の低い人も高い人も、同じように飲食料品などの必需品には支出するので、所得の低い人の負担が高いことが問題とされてきた。これが逆進性 の議論である。

 消費税の増税には反対意見が強かった。景気を悪化させてしまうのではないかという心配と共に、消費税の逆進性も指摘された。特に、消費者擁護の立場に立つ公明党は、消費税増税を認める代わりに、欧州のように飲食料品には安い税率を適用する軽減税率を導入するよう、強く主張した。これに対して、税収が減少することや、徴税事務が複雑化するとして、財務省や自民党の税制調査会のメンバーは反対した。

 しかし、自公連立を重視する安倍政権は、公明党の意向を無視できなかった。軽減税率の導入は自公両党の選挙公約とされた。ただし、その具体的な方法については、徴税事務について独占的な知見を持つ財務省にほぼ丸投げされた。

 政権政党の意向を受けた財務省は、消費税を10%へ引き上げる際に、外食を含む酒類以外の飲食料品については2%を還付する(1000円の飲食料品を買うとき支払った100円の消費税のうち20円が後で戻ってくる)という方法を提示した。飲食料品には、実質的に8%の軽減税率が適用されることになる。低所得者の〝痛税感〟を緩和するのだという。

 〝逆進性〟という言葉を使わずに、〝痛税感〟という言葉を使う。さすがに、政治家の人たちは言葉の使い方がうまい。2%も税金をまけてくれる仁政である。

 仕組みはこうだ。社会保障と税の共通番号(マイナンバー)のカードを店の機械にかざすことで戻る金額が記録される。インターネット上のサイトで一定時期にまとめて還付申請すると、登録金融機関の口座に税務署が還付金を振り込む。税収の減少を抑えるためと、高額所得者を優遇しないようにするため、還付金に1人当たり年4000円の上限を設ける。ということは、年間20万円分の買い物までが対象である。月額で1万7000円、日額にすると550円にすぎない。弁当1食分である。還付金は日額11円である。・・・・


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