メディア掲載  外交・安全保障  2015.09.29

【新型の大国関係】米中外交の行方を左右

読売新聞2015年9月28日に掲載

 「新型の大国関係」は21世紀の米中関係を導く概念になりうるだろうか。それとも米中の拭いえない確執を象徴する言葉に留まるだろうか。

 中国にとって米中関係の戦略的重要性は外交政策の要諦である。過去の歴史には、新興大国が既存の大国に挑戦して戦争が生じる「ツキジデスの罠」という法則があった。台頭する中国と既存の大国である米国が摩擦を深め衝突に至る危険は現代版の「罠」になりはしないか。

 こうした懸念を避けるため、中国自身が歴史上の「挑戦国」とは異なる新興大国であることを示さなければならない。この衝動こそが胡錦濤政権で謳われた「平和的台頭」であり、その後の習近平政権の対米政策のキーワードとなった「新型の大国関係」の背景にある。

 「新型の大国関係」は胡・ブッシュ時代に設立された米中戦略・経済対話(S&ED)の中で、既に中国の外交当局から言及されていた。この概念が明確に打ち出されたのは、2013年6月に米カリフォルニアで開催された習・オバマ米中首脳会談である。

 習国家主席はこの会談で、「新型の大国関係」として①衝突・対抗の回避、②核心的利益と主要な懸案の相互尊重、③ウィン・ウィンの協力を米中関係の根本原則とすることを呼びかけた。さらに昨年11月に北京で開催された米中首脳会談では、この3項目に加え、アジア太平洋における協力やグローバルな課題に対する共同行動などが盛り込まれた。

 今回の米中首脳会談では、サイバー、人権、南シナ海などの多くの懸案事項が残されたが、両国の危機管理のメカニズムや投資協定の締結加速、北朝鮮問題に対する協力や気候変動といった地域やグローバルな課題に対し、広範な協力を進めることを確認した。「新型の大国関係」は中国にとって、米国との多分野での協力を推進する概念であると同時に、米国との摩擦を避けながら対等な地位を確立する概念ということになる。

 しかし米国は中国の建設的姿勢を尊重しながらも、「新型の大国関係」という用語に同調することは慎重に避けている。最大の課題は中国が「核心的利益の相互尊重」を重視していることにある。核心的利益には国家主権と領土保全が含まれるが、中国はこれまで台湾、チベット、新疆ウイグル自治区などに加え、南シナ海や尖閣諸島を概念の一端として示唆した経緯がある。

 「新型の大国関係」には、中国の核心的利益の保全を担保しつつ、米国のアジア太平洋地域における関与を限定化させるという論理が控えている。米国が「新型の大国関係」を字句通り受け入れることは、同盟国や友好国に対する安全保障上の関与を低下させることに繋がりかねない。「新型の大国関係」が米中両国に受け入れ可能となるには、まだ多くの溝を乗り越えなければならない。