日本を取り巻く安全保障環境の最大の変化は、中国の台頭だ。中国が軍事力を急速に拡大させた結果、米国との軍事バランスが崩れ、東アジアでの紛争の抑止、対処の方程式が大きく変化しつつある。自衛隊が米軍への行動に支援を強化する法整備は、中国への抑止力として必要だ。
尖閣諸島周辺では、中国の公船による領海侵犯が繰り返されている。日本の施政権を脅かすような状況で、東シナ海でのグレーゾーン事態(準有事)も懸念される。
中国の軍艦が、日本の領海内で活動を常態化させるといった挑発のエスカレートは避けなければならない。米艦防護など日米の共同対処能力を強化し、中国につけいる隙を与えないことは重要だ。法整備は日本の主体的な取り組みで、「米国のいいなり」との批判は当たらない。
ただ、抑止という観点から、法案が想定するグレーゾーン事態への対処には疑問が残る。自衛隊の海上警備行動や、治安出動のための迅速な閣議決定の手続きを定めた。自衛隊の出動を柔軟に担保することは重要だが、警察権の範囲で行動したとしても、中国に海軍投入の引き金を引かせることにつながりかねない。海上保安庁による対処を優先し、海保の武器使用権限の拡大や巡視船の増強を可能な限り進めるべきだ。
法案は、朝鮮半島有事への備えでもある。重要影響事態法案で後方支援の対象を米軍に限定せず、オーストラリアなど友好国に広げたのは当然だ。
日本は戦後、国際社会の環境変化に対応を迫られ、法整備を進めてきた。日本の貢献は評価されており、自信をもっていい。間違った政策判断をさせないように、一人一人が選挙に緊張感を持って臨むことこそが重要だ。