メディア掲載 国際交流 2015.08.28
昨秋以降、改善に向かいつつある日中関係にとって、最大の懸案は終戦70年の総理談話だった。中国政府関係者はこれを無事に乗り越えることができれば、尖閣問題発生以来止まっていた様々な日中協力プロジェクトを本格的に動かせるようになると考えていた。その事情をよく知る日本企業のビジネスパーソンもそこで新たな摩擦が生じないことを願っていた。
予想外にも4つのキーワードのすべてが談話に盛り込まれたこともあって、中韓両国から厳しい批判を受けることなく無事にハードルをクリアした。中国市場の最前線で奮闘している日本企業関係者はほっと胸をなでおろし、今後の事業展開に向けて気合を入れ直したことだろう。2012年9月の尖閣問題発生により最悪の状況が続いていた日中関係は日本企業の中国ビジネスにとって足枷となっていたが、これでようやく長いトンネルから抜け出すことができそうである。
中国政府にとっても1980年代以降ずっと中国経済の支えとなっていた日本企業の対中投資の回復は、今後の経済運営の安定基盤確保にとって極めて重要な条件である。加えて、南シナ海の人工島問題を巡る最近の米中関係の悪化を考慮すれば、アジア太平洋地域における日米同盟を軸とした中国包囲網との対立を緩和するため、日本との関係改善を進めるインセンティブは強い。
この間、株価暴落、人民元安等の問題を材料に、各種メディア報道において中国経済の減速が強調されているが、筆者には悲観論に傾き過ぎているように見える。最新の現地情報を基に冷静に中国経済を分析すれば、今年の下半期から来年にかけて成長率は小幅ながら上昇する可能性が高い。それを支える3つの好材料は、地方財政支出の回復、不動産投資の回復および第13次5カ年計画のスタートである。
中国の政府関係者、エコノミストの多くは、これらが株価下落の下押し圧力を打ち消し、今年と来年は7%台を保つと見ている。筆者も、足許の雇用と物価の安定、財政収支の健全性から見て、もし予想外の下押し圧力が働いても、財政金融政策両面で景気刺激策の発動余地が大きいことから、景気下振れリスクは小さいと見ている。
以上のように、日本企業に追い風が吹き始める中、7月下旬に訪問した武漢と上海では、自動車関連、小売・物流関連等を中心に、日本企業の対中投資が動き出したとの情報を耳にした。
中国ビジネスに積極的に取り組んでいる日本企業は着々と準備を進めてきた。自動車では現地化によるコストダウン、設計・デザインの改良、および販売戦略の見直し、建設機械では需要に合わせた生産・販売体制の構築と在庫圧縮努力、小売では現地ニーズに合わせた品揃えと店舗展開などである。これらの地道な努力が実を結び始め、苦戦を強いられている非日系の外国企業や地場企業を尻目に、日本企業が業績を伸ばしている。
中国の所得水準向上に伴って、豊かな生活を楽しむ中間層が拡大し、目の肥えた消費者が増え、品質重視の日本企業に対する評価が高まっている。多くの中国人旅行者が日本で爆買いを楽しむ様子が中国国内でも大きく報道され、中国の一般庶民に対して日本製品の品質の良さを改めて印象付けた効果も大きい。市場が急速に拡大していた時には市場の激変についていけず後塵を拝していた日本企業が、最近の中高速成長下の中国市場にはうまく対処しているようにも見える。これからの日本企業の中国ビジネス展開の加速が楽しみだ。