論文 財政・社会保障制度 2015.07.24
はじめに
第4回目は高知県安芸市を取り上げる。安芸市は高知県の中でやや東に位置し、阪神タイガースのキャンプ地として知られている人口18,469人(平成27年4月現在)の市である。
安芸市は平成に入ってから公営住宅、保育所、リサイクルプラザ、最終処分場、し尿処理施設などの建設事業や道路整備を積極的に進めた結果、負債が膨らんだ。これまでどおりの財政を続けると、平成18年度には累積赤字額が標準財政規模の20%を超え、財政再建団体に転落するという試算をふまえ、平成16年1月に「安芸市緊急財政健全化計画」を発表した。「借金依存体質からの脱却」を図るため、起債を抑制し、人件費削減、税徴収の強化などを推し進めていたが、平成20年度決算で実質公債費比率が基準値(25%)を上回る27.6%となり、財政健全化団体に陥った。しかし、平成21年度で、実質公債費比率が24.5%に改善し、わずか1年で財政健全化団体から脱却した。
安芸市の財政難の要因は、相次ぐ建設事業のために行った起債の増加である。バブル崩壊後の国の景気対策に乗じて、安芸市の財政規模に見合わない投資を毎年のように続けたため、気が付いた時には負債が膨らみ、公債費が財政を圧迫していた。そこに景気後退による税収減や三位一体改革による地方交付税の削減が加わり、財政が厳しくなった。
安芸市が1年で財政健全化団体から脱却できたのは、5年前から取り組んでいた起債抑制・公債費削減の効果が出始めたからである。建設事業を先に延ばし、市税や住宅使用料、保育料などの徴収強化を図り、人件費を削減した結果が徐々に出てきたからである。安芸市は、国の制度も上手く活用した。公的資金補償金免除繰上償還や交付金などを上手く活用し、市債残高を削減していった。また、自主財源を増やすために、徴収強化に努めたが、特徴的だったのは、個人住民税の特別徴収の強制指定である。この取り組みにより、安芸市は特別徴収において第一人者となった。
本稿では、財政難にはなったが、本来の業務を徹底した結果、全国の自治体がお手本にする特別徴収の第一人者になった安芸市の財政再建に着目する。...