コラム  国際交流  2015.07.02

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第75号(2015年7月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 6月初旬にアジアの将来を語り合う香港での会合(Asia Vision 21 (AV21))に出席した。"オフレコ"(所謂the Chatham House Rule)で、また殆どが旧知の間柄で語り合うこの機会は、難解な諸問題に対して、有益で新たな視点を参加者に提供してくれる。今回、日本からは、堀井昭成弊所理事・特別顧問、福本智之日本銀行北京事務所長、現在コロンビア大学で研究をされている伊藤隆敏教授、そして筆者の4人が参加した。討議の合間には幸運にも伊藤教授の論文("Is the Sky the Limit? Can Japanese Government Bonds Continue to Defy Gravity?")に関し語り合う事が出来た。同僚の小林慶一郎氏は、小誌5月号で触れた彼の著書(『ジャパン・クライシス』)の中で同論文に言及し、「副題にあるDefy Gravityとは重力に反している(重力を無視する)といった意味です。つまり、経済学者の常識からすれば、国債価格は今すぐ下落して当然なのにそうなっていない。ありえない事態が起きている」と述べている。伊藤教授と語らいつつ、「経済学の常識」から乖離する時間的・体力的余裕が今の日本に幾ら残っているのか、気になった次第だ(小誌でも同論文の先行研究("Defying Gravity")を、既にNo. 41 (2012年9月)の中で触れている)。

 米中戦略経済対話を間近に控えていたために、両国関係の話題、加えて東南アジアの対応が討議された。筆者は中国側が作成した米国の「知中派(知华派)」に関する資料--例えば、中国外交学院が1月に発表した報告書(「美国知华派评估报告」)や新華社のシンクタンク(瞭望智库)が5月に発表した資料(「瞭望智库眼中的美国十大"中国通"」)--についての評価を、会合に参加した多くの研究者・実務家と語り合った。

 今回、日本の話は脇に置かれた感があったのが残念であった。こうしたなかYouTubeを通じ配信された米国でのDARPA Robotics Challenge (DRC)に関し、インドのバンガロールから参加したIIIT(International Institute of Information Technology)の研究者と日本チームの苦戦を語り合った。DRCの結果は内外で広く報じられたが、同時に筆者がIIITの知人と話したのは、5月26~30日、シアトルで開催されたロボットに関する会合(IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA) 2015)での目を見張る研究成果だ。この会合では、14の分野で表彰が行われたが、残念なことに、ここでも日本の受賞は皆無だ。かくしてロボット研究・事業分野での競争は一段と厳しい様相を呈している。因みにICRAで活躍したMITのダニエラ・ルース教授は、Foreign Affairs誌最新号の冒頭で注目すべき論文("The Robots Are Coming")を発表した(次頁の2参照)。確かにロボットは世界中で空前の大ブームとなっている。英国のエリザベス女王も6月に訪独した際、ロボットからの歓迎を受けたと独TVニュースが伝えた(例えば25日夜のZDF)。しかし、ロボットの事業化は未だ製造業等の特定分野だけに限られ、サービス分野に関しては克服すべき課題も多い。これに関し、MITのディヴィッド・オーター教授が、昨年のジャクソンホール会議のために書いた論文("Polanyi's Paradox and the Shape of Employment Growth")の中で、ロボット技術に対するマスコミの一知半解的な過剰反応に対して警告を与えている。また、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が、小誌3月号で触れたボストン大学の研究者等と共に4月に発表したロボット技術の経済的意味を考察した論文も興味深いことを指摘しておきたい(小誌前号の2参照)。


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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第75号(2015年7月)