メディア掲載  外交・安全保障  2015.05.28

【シームレス】切れ目のない安全保障体制

読売新聞2015年5月25日に掲載

 「シームレス」とは、「切れ目のない」「継ぎ目のない」を意味する言葉だ。今年4月に18年ぶりに改訂された日米防衛協力のための指針では「日本の平和及び安全の切れ目のない確保」が謳われた。また、現在国会で議論されている安全保障法制でも「切れ目のない体制の整備」がキーワードとなっている。

 日本の安全保障体制における「切れ目」とは何を意味するのか。そこには少なくとも三つの問題意識をみることができる。第一は「(平時か有事かなどの)事態の段階」である。従来の法制度は平時と有事(武力紛争)の区分けを基礎としながら、自衛隊の防衛出動や日米安保条約の適用を考えていた。しかし、日本を取り巻く安全保障環境には、純然たる平時でも有事でもない「武力攻撃に至らない事態」(=グレーゾーン)が目立つようになった。したがって警察権と自衛権の間の「切れ目」に対し、警察や海上保安庁の能力を向上させ、また自衛隊が迅速に対応する手続きを整備し、両者の情報共有や共同訓練などを通じた連携強化を図ろうとしている。

 第二は「安全保障の地理的空間」である。これまで日本の領土防衛、周辺事態への対応、グローバルな安全保障への関与は、それぞれ別々の法体系によって区分されていた。しかし、軍事技術の革新や国際テロリズムの動向などを踏まえると、それぞれの地理区分の「切れ目」を横断する脅威に対応する必要に迫られるようになった。今回の安保法制においては、地理的概念ではなく事態の性質に着目し「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)として、シームレスに地理的空間を捉えようとしている。

 第三は「日本と外国との協力」である。従来の周辺事態法では、自衛隊の後方地域支援の対象は、日本の周辺地域で活動する米軍に限定されていた。しかし、日本を取り巻く事態に活動するのは米国に限られないことから、米軍以外の他国軍に対する支援を可能にすることが模索されている。また、平時から自衛隊と米軍とが連携して警戒監視活動を行うため、「武器等防護」によって自衛隊が米軍等を守り、また「存立危機事態」においては日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃にも対応する枠組みが提案されている。

 ダイナミックに変化する安全保障環境に対応するために、安全保障政策の三つの「切れ目」をシームレスに均(なら)していくことの重要性と、それでも残存する「切れ目」を用いて事態の悪化に対する段階的(エスカレーション)管理をすることの双方が、今後の安保法制をめぐる議論の焦点となるだろう。