コラム 財政・社会保障制度 2015.05.22
環境税は「外部不経済の内部化」を期待されており、従来からある規制的手法ではなく、経済的手法で環境問題を解決するための税である。現在の日本の環境税は、環境保全を目的とした環境政策税制としての意味合いが強く、近年の地方分権や国から地方への税源移譲(三位一体改革)の流れのなか、地方税を中心に新しい環境関連税制の議論が活発化した。しかし、新たな税目を創設するのは困難であり、唯一、地方税として産業廃棄物税が創設されたが、多くは自動車税や住民税などの既存税の中で上乗せもしくは減額する形である。地球温暖化対策税制も、租税特別措置として、2012年10月から石油石炭税(石油開発・備蓄目的)にCO2排出量に応じた税率を上乗せする形をとっている。
1.日本の環境税の変遷
日本では、1950年ごろから公害による健康被害が問題となり、公害対策の一環として環境対策がスタートした。1983年に公害健康被害補償法上の賦課金(汚染負荷量賦課金)を環境税の一種ととらえれば最初といえる。一方、地方自治体においては、広島県は1975~1982年にかけて、自動車税の超過課税を行ったことが最初とみていいだろう。1970年に米国マスキー法(大気浄化法Muskie Act)制定があり、自動車の排ガス規制が強化されたため、ロータリーエンジンを掲載するマツダが広島を拠点としていることから生まれたとみてよいだろう。
環境税に関する議論には3つの潮流があった。①環境省・経済産業省ライン(京都議定書をベースに排出権取引や温暖化対策税を議論)、②京大ライン(学術的進展を図ったもの)、③東京都+委員ライン(環境地方税の創設を図ったもの)である。
CO2排出削減を目的とした経済的誘導策とする「税制のグリーン化」という言葉を初めて使ったのは東京都である。1999年に条例改正して、2001年から「自動車税のグリーン化」として自動車税の超過課税を開始した。その後、地方税のグリーン化という形で、総務省が引き取り、これ自体としては環境税そのものではないが、課税ベースを組み替えたり、差別課税を行ったりすることで、環境に良い方向に誘導する仕組みを既存税の中に組み込むことが自動車税の考え方の主流となった。
2.地方分権と税源移譲による地方自治体主導の環境保全関連税の広がり
1999年の地方分権一括法の制定を契機に、地方自治体の中で新税の検討が流行した。なかでも環境保全のための新税として、「産業廃棄物税」、「森林・水源環境税」が創設された。最終処分場や中間処分場への搬入に課税する「産業廃棄物税」は、2001年4月に三重県が導入して以来、処分場を持つ28自治体すべてが導入している。森林環境の保全を目的とする「森林・水源環境税」は2003年の高知県を皮切りに33自治体が導入している。ただし、これは新たに税目を創設したのではなく、住民税に上乗せする形で徴収している。
3.日本で環境税が進まない理由
日本で環境税が進まない要因は6点である。
①電気ガス税の廃止:日本では、「電気ガス税」が市町村税として存在していたが、1989年の消費税の導入の際に廃止された。いったん廃止したものを、国税や市町村税として復活するのは至難の業であるために、電気やガスに課税することが難しい。
②電力業界の勢力と東日本大震災後の電気問題:日本では電力業界の政治力が強く、電気に課税するのは難しい。加えて、東日本大震災後に、電力供給が困難な時期があり、その後電気料金が値上がりし、最近になって、やっと落ち着いてきたので、議論になりにくい。
③日本社会の価値観:日本社会の価値観が、「経済成長と環境とのバランス」よりも「経済成長・効率」を優先する傾向にある。
④エネルギーリスク:現在の原油の乱高下や先物取引状態によるリスクが存在するために環境税の安定化が危ぶまれる。
⑤業界団体の反対:日本では、欧州のような環境消費税的な環境税を導入しようとすると、消費者に対する課税であるにもかかわらず業界団体が大反対する。
⑥税負担増加に対する国民の抵抗。
4.まとめ:日本の特徴と今後の課題
日本では、欧州と比べると地方自治体が行う行政サービスは大きい。自治体が環境政策をかなりの割合で担っているので、自治体主導で地方税として検討されている。環境保全のための法定外目的税となることが多いため、財源調達としては金額が小さい。
エネルギー課税は国税がほとんどであり、炭素税の狭義の環境税は国税の方が創設しやすいはずであるが、政治の争いや省庁間の争い、業界団体からの反対があり、世論を動かすようなことが起きない限り、簡単に創設できるとは思えない。
地方税として環境税を導入する方がたやすいだろう。産業廃棄物税も森林環境税も、地方分権や税源移譲などの大きな背景がある場合に創設されているので、今後も合意形成しやすいトレンドが生まれれば、環境税を導入できる可能性があるだろう。また、環境税を地方税として構築をしたほうがよいとする考え方がある。なぜなら、環境税の基本的考え方は「外部不経済の内部化」であり、炭素税は、消費者が石油製品を購入する際に税金をかけて、石油製品の購入に抑制をかけるものなので、消費者に近い地方自治体で課税するのが望ましいという考え方である。
今後にむけて、電気やガスの使用時や商品の購入時のインセンティブに働きかける本来の環境税の考え方に基づいた環境税を導入できるかが日本の課題である。