コラム  国際交流  2015.05.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第73号(2015年5月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 3月末、ドイツの友人に「今、ギリシャにストア派の人は少ない。従って、ゲーテ大先生の"鉄の辛抱、石の忍耐(ehrne Geduld, ein steinern Aushalten)"という精神で緊縮財政に取り組む人は少ないよ」と冗談を交えた電子メールを送った。すると、彼から「独紙Frankfurter Allgemeine Zeitungは„Geldschwemme ohne Gegenleistung(益無き金融緩和)"と題した記事を載せ、日本経済を心配している」と反撃された次第だ。確かに、我が国経済も決して前途洋々と言う訳ではない。同僚の小林慶一郎氏による近著(『ジャパン・クライシス: ハイパーインフレがこの国を滅ぼす』 2014)を読み、納得すると同時に、下に引用した記述に対して筆者も特に憂慮している。

 「アベノミックスは真珠湾攻撃のようなものだと言う人がいます。緒戦は華々しく勝利を収めるが、きちんと出口を準備していないので、負けてしまう ...。『財政敗戦』に向かっている過程ではないか...。... 皆、いつか『神風』が吹くはずと思っているのではないでしょうか。痛みが伴うような政策は、... できれば言わずに済ませたい」
 従って、念の為に様々な対策を講じ、屈強(robust)でないとしても、強靱(resilient)な体質へと日本を事前に変えておくことが急務だ。しかも残された時間・資源は無くなりつつある事を銘記する必要がある。


 さて、遂に『昭和天皇実録』の刊行が開始された。個人的な関心としては、アンドレ・マルロー仏国文相が訪日した際の記述を探したいと考えている。昭和天皇が「何故そんなに昔の日本に興味を持たれるのですか」とお尋ねになった時、彼は「騎士道を創り上げた民族が武士道を創り上げた民族にどうして無関係でいられるでしょうか(Pourquoi le peuple qui a inventé la chevalerie ne serait-il pas lié à celui qui a inventé le bushidô?)」と返答したらしい。フランスの友人から聞いたこの話を確認し、また彼に武士道に関する正確な情報を伝えたいと考えている。

 即ち①武士道は天皇を含む貴人に"侍ふ"人々のcode of conductで、②武士階級(士族)は明治初期の日本の人口の5%にも満たず、日本人特有の善良さは、むしろ庶民階級を源としており、③武士道は多様で、例えば、『葉隠』で有名な武士の山本常朝は上方風の武士道を嫌い、また④当然ながら禄盗人と呼ばれる無能な武士も少なからずいたという事等だ。

 先の大戦で、武士道は著しい不名誉を蒙ったが、天皇陛下が先月ご訪問されたペリリュー島の戦闘では、悲痛な程のサムライ精神が発揮された--同島はスピルバーグ監督や俳優のトム・ハンクス氏等が制作したTV映画(The Pacific, 2010)の中で硫黄島や沖縄より大きく取り上げられ、米豪両国の友人達の間でも有名だ。また帝国陸軍の優れた情報参謀の堀栄三氏も『大本営参謀の情報戦記』の中で、同島で斃れた中川州男大佐に触れている。そして堀氏は、中川大佐をはじめとする日本軍将兵の悲劇を次のように語っている。

 「日本が守備隊を配置したのが大小25島、そのうち米軍が上陸して占領した島は、わずか8島にすぎず、残る17島は放ったらかしにされた。米軍にとって不必要な島の日本の守備隊は、いずれ補給もない孤島で餓死するのだから、米軍としては知らん顔であった。戦後の調査資料によると、前記25島に配置された陸海軍部隊は、27万6千人、その内、8島で玉砕した人数が11万6千人、孤島に取り残された人数が16万人、そのうち戦後生きて帰った人数が12万人強、差し引き4万人近くは孤島で、米軍と戦うことなく、飢えと栄養失調と熱帯病で死んでいった」

 敗戦70周年を迎え、安倍総理はバンドンで「先の大戦の深い反省」を語られた。筆者も、敵味方に関係無く大戦の悲劇に巻き込まれた人々に想いを馳せ、また歴史を内省的に学ぶため、故国を遠く離れ生命を失った兵士の遺書を集めた本(例えば『世紀の遺書』)の再版を願っている。


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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第73号(2015年5月)