メディア掲載 国際交流 2015.03.23
1.アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立された背景
中国経済は「新常態」の基本方針の下、内需主導型の中高速成長を保っています。内需拡大や都市化の進展に伴い労働需給が逼迫し、賃金水準が上昇し、労働集約型産業の輸出競争力が低下する一方、輸入の増大が続きます。
こうした状況の下で、中国が今後中長期的にマクロ経済の良好な状態を維持するには、輸出を伸ばし、経常収支が慢性的な赤字状態に陥ることを防ぎ、通貨価値を安定させることが必要です。それが雇用の確保と物価の安定を可能にし、ミドルインカムトラップに陥ることを防ぐための重要な条件です。
中国の人民元は米ドルのような基軸通貨ではないため、中国が慢性的な経常赤字に陥れば、人民元の通貨価値を保つことができず、人民元安を招きます。人民元安は輸入物価の上昇を通じてインフレを引き起こします。インフレを抑制するために金融を引き締めれば景気が後退し、失業が増大します。中国政府はこのような悪循環に陥ることを何としても防がなければなりません。
世界の中で米国と中国以外の国々は経済規模がそれほど大きくないため、既存の輸出を伸ばすことによって経常収支の安定を保つことが可能です。しかし、中国は米国同様、経済規模が非常に大きく、既存の輸出を伸ばすだけでは十分な輸出先の確保が難しいことが懸念されます。
そこで中国は、周辺地域のアジアにおけるインフラ建設促進によって新たな需要を掘り起こし、中長期的に安定的な輸出の伸びを保ち、経常収支が慢性赤字に陥らないようにすることが必要です。そのためには海と陸のシルクロード構想とAIIBを一体として活用することが中国にとって非常に重要な政策です。
2.なぜイギリスなど多くの国が参加しようとしているのでしょうか?
AIIBに多くの国が参加しようとしているのは、次のような理由です。
発展途上国はインフラ建設によって自国経済の発展を促進したいと考えています。主に先進国ではこれによって掘り起こされる巨大なインフラ建設関連ビジネスを自国企業の業績拡大に活かしたいと大きな期待をかけています。
3.なぜ日本の政治家や専門家はAIIBに参加することを迷っていますか?
日本がAIIBへの参加に消極的な最大の理由は、中国政府がAIIBの組織および運営に関する情報を事前に提供しないため、日本が加入することが適当かどうかを判断することができないためです。
また、日本と緊密な関係にある米国が日本と同様に慎重な姿勢を保っていることも要因の一つです。
この問題を解決するには、日本が加入するか否かを判断するために必要な情報を中国が事前に提供することが望まれます。
4.日本がAIIBに参加するメリットはありますか?具体的にどのような利点がありますか?
私自身は日本と中国がともに協力し合って、AIIBをグローバルスタンダードに準拠した国際開発銀行として発展させることができれば、日本の参加が日中両国およびアジア諸国にとって大きなメリットを生み出すと考えています。
国際開発銀行の運営において重要な点は以下の通りです。
第1に、将来にわたって中長期的に価値を生み出す有効な投資案件を選別する審査能力です。審査能力が低いと、将来、AIIBの資産内容が悪化します。
第2に、組織運営のガバナンス、透明性確保など、既存の国際開発銀行と同等の、グローバルスタンダードに基づく条件を満たすことです。この条件を満たさなければ、金融市場からの信頼を得られず、資金調達金利が上昇します。調達金利が高ければ貸出金利も高くなり、借り手を見つけることが難しくなり、インフラ建設を促進する効果が小さくなります。
日本はアジア開発銀行、世界銀行など既存の国際開発銀行の組織・業務運営において豊富な経験があり、国際社会から信頼されている実務能力をもつ有能な人材を多く抱えています。彼らがAIIBの組織・業務運営に協力すれば、上記の2つの面において大きく貢献すると考えられます。その結果、AIIBの信頼度が高まり、借り手も安心して借りることができるようになります。
このようにAIIBが期待通りの機能を発揮するには日本と中国がともに協力し合い、積極的にAIIBの組織・業務運営を改善する努力を継続することが不可欠です。
5.日本はAIIBに関して今後どう対応するべきですか?
以上のように、AIIBの組織編成や業務運営がグローバルスタンダードに準拠して進められることを確認の上、日本がこれに参加することは、日本にとっても、中国にとっても、そしてアジア諸国にとっても大きなメリットが生まれます。
私は、日本がアジアの経済発展のためにも早期にAIIBに加入し、中国およびその他の参加国とともにAIIBを立派な国際開発銀行へと発展させることが望ましいと考えています。
今や日本と中国の経済はどちらか片方だけが発展することはできない関係にあります。中国の発展は日本の発展であり、日本の発展は中国の発展です。そして日中両国の協調発展こそアジア経済全体の発展の原動力となります。AIIBはそうしたアジア全体の発展ひいては世界経済全体の発展に大きく寄与する可能性を持っています。