メディア掲載 国際交流 2015.03.09
昨年11月の日中首脳会談の実現を機に、日中関係は徐々に改善の方向に向かっている。ただし、中国側の姿勢は依然慎重で、改善テンポは遅い。一方、日韓関係は昨年、オバマ大統領が仲介役となって関係改善に向けて働きかけたが、こちらも動きは鈍い。
今年は戦後70年にあたるため、日本、中国、韓国等で様々な記念行事が予定されており、それが摩擦の火種になることが懸念されている。
そうした外交関係を無視するかのように、日本を訪問する中国人観光客の激増が続いている。昨年の中国人訪日客数は241万人、前年比83%増だったが、今年の1月も23万人、同45%増とその勢いは止まらない。この間、韓国人訪日客は注目されていないが、訪日客数は中国人を上回っており、昨年が276万人、前年比12%増、今年の1月は36万人、同40%増だ。
もちろん円安の恩恵で、日本の旅行代金や買い物が割安になっている効果は大きい。それでも本当に日本が嫌いであればこういう現象は起きないはずである。中国人の友人の話によれば、ある家族が日本に旅行してとても良かったという話をすると、その話を聞いていた両親や友人の家族が自分たちも日本旅行に行きたいと言い、次の日本旅行の機会に一緒について行くパターンが多いそうである。大半の中国人は一度日本を訪問すると日本に対する見方が変わり、好印象をもつようになる。
このように政治・行政主体の外交関係の回復の鈍さと民間主体の経済・文化・観光の活発な交流関係は対照的である。
日中・日韓関係は歴史認識問題と領土問題の悪影響を受けている。このうち領土問題は棚上げする以外に対策は見当たらない。しかし、歴史認識問題は努力を重ねれば改善も可能である。
その際、相手国の歴史認識を否定・批判することは相手国の反発を招くだけで、何の国益も生まない。相手国の歴史認識に干渉するのは摩擦を悪化させるだけである。歴史認識の修正は各国が自発的に自国の歴史認識を見直すしかない。
そうした観点に立てば、日本として取り組むべき課題は明らかである。中国、韓国がどのような歴史認識を持っていようとも、日本として客観的な事実と考える歴史を学び、認識するしかない。
今年は戦後70年の節目で、様々な行事が予定されている。しかし、そもそも一般の日本人が中国への侵略戦争、韓国併合、太平洋戦争等に関してきちんと理解できているかと問えば、はなはだ心もとないと言わざるを得ない。それは小学校から高等学校までの歴史教育において、明治維新から昭和に至る近代史を学ぶ機会が殆どないからである。このような状態で戦後70年を迎え、戦後を総括すると意気込んでも、大多数の日本人がその意義を理解しない可能性が高い。
戦後70年を総括し、今年を新たな時代に向かう節目の年としたいのであれば、歴史教育もそれにふさわしい中身に改めるべきである。日本人が明治維新後の日本と中国、韓国等アジア諸国との関係史を理解し、その上で日本を訪問する中国人、韓国人等と心を開いて交流すれば、日本を訪問した中国人、韓国人等が日本人の歴史認識を評価するようになるはずである。
日本に対する好印象を生んでいる現在の活発な民間交流を心の絆を強める相互信頼へと高めていくためにも、日本の歴史教育を根本的に改め、明治維新から昭和に至る近代史を歴史教育の中核とすべきである。戦後70年の今年こそ、歴史教育の大改革に踏み切る時である。