メディア掲載 外交・安全保障 2015.01.07
発足から2年が経過した安倍政権の外交政策は、目を見張るべき成果を挙げている。安倍首相は2年間で主要大陸を跨ぐ50カ国を訪問し、同政権の掲げる「地球儀を俯瞰する外交」を着実に進展させている。政権発足前に頻繁に首相が交代していた時代と比較すれば、持続性のある外交を展開し、各国首脳との個人的な関係を構築することによって、国際社会における日本のプレゼンス向上に果たした役割は高く評価されるべきである。
安倍政権はこれまで「価値の外交」を掲げて自由・民主主義・人権の尊重・法の支配といった普遍的な価値を共有することを重視してきた。就任直後に発表した「対ASEAN外交五原則」では普遍的価値の定着と拡大が第一の原則に据えられ、本年5月のアジア安全保障会議での演説でも「法の支配」を何度も強調しながら、海洋安全保障の秩序構築の重要性を訴えた。
しかし「価値の外交」をめぐる潮流に、最近大きな変化が生じていることも見逃すことはできない。ロシア、タイ、北朝鮮という3つの国を例にとってみたい。ロシアは昨年3月にクリミア半島を併合し、現在も東ウクライナ問題をめぐって主要国と対立を深めている。そのロシアに対し、日本政府は慎重に関与政策を継続し、本年にもプーチン大統領の訪日の機会を探っている。昨年5月にクーデターを経て軍事政権を発足させたタイに対し、欧米諸国が厳しい対応をとるなかで、日本は旧西側諸国として最初にプラユット首相との首脳会談を実施し、早期の訪日を招請した。また北朝鮮は金正恩体制下で孤立を深めていたが、日朝政府間協議を断続的に開催し、北朝鮮側に拉致問題に関する特別調査委員会を組織させた。
こうした動向を踏まえ、安倍政権が当初の「価値の外交」の看板を下ろし、民主主義や法の支配を逸脱した国々に対しても、なりふり構わぬ実用主義的外交へと転換した、と捉えることもできるかもしれない。しかし、クーデターによる体制変換や、力による秩序変更をもたらした国との外交関係を一律に遮断するような紋切り型の価値外交は、かえって対象国が孤立を深め対抗を企てる「自己実現的予言」を招きかねない。これらの国々に厳しく外交の「入口」を閉ざすことも時には必要とされるであろう。しかし、こうした国々に粘り強く関与しつつ、長い目で法の支配と民主化への「出口」へと導く外交にも力点が置かれなければならない。だからこそ、ロシアにはウクライナでの停戦合意の完全履行を促し、タイには早期の民政復帰を支援し、北朝鮮には日朝協議を通じて朝鮮半島の核・ミサイル問題についてもリンクさせているのである。このような「出口」の価値を明確にし、そこに伴走し導いていく外交こそが、日本が推進すべき「価値の外交」の姿であってほしい。