コラム  国際交流  2015.01.07

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第69号(2015年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 謹賀新年。深い霧へと世界が向かうなか、微力ではあるが少しでも正確な情報提供を心掛けてゆきたい。さて、米国の国防長官として、アシュトン・カーター氏が正式に任命されるようとしている。2009年までハーバード行政大学院(HKS)の教授を務めた同氏の考えを身近に接することが出来たが、超大国米国の指導者の一人として、彼が世界平和に貢献してくれることを切に願っている。彼の見解に関して印象深いのはまず①北朝鮮問題だ。彼は北朝鮮の極悪人(worst people)よりも彼等が開発した核兵器を最悪兵器(worst weapons)として警戒する。即ち、北朝鮮政権は早晩崩壊するかも知れぬが、プルトニウム239の半減期が約24,400年であるから、一旦開発された核兵器は超長期に亙って世界を脅かし、"タリバン等のテロリストの手に渡る(talibanized)"という危険性が発生する。従って彼は、武力行使をも含む米国の強硬姿勢を主張していた--彼の基本的姿勢は、2003年の米国議会証言("An Agreed Framework for Dialogue with North Korea")やHarvard Magazine誌同年9/10月号に掲載した"The Korean Nuclear Crisis"、また2004年の議会証言("Nonproliferation and Arms Control: Strategic Choices")で示されている。次いで②対中戦略に対する彼の考えも興味深い--中華人民共和国の建国60周年を迎えた2009年、米国の研究者--ジョセフ・ナイやアンソニー・セイチ等--と中国の専門家が、共同で1冊の本(Power and Restraint: A Shared Vision for the U.S.-China Relationship, Public Affairs)を発表した。同書は、原則として米中の研究者がテーマ毎に共同で執筆する形を採ったが、グレアム・アリソン教授と彼の2人だけは、中国側の研究者とあたかも距離を置くかのように別々に論述する形を採っていたのが印象深い。また2006年Foreign Affairs誌上に掲載された彼の米印関係に関する論文("America's New Strategic Partner?")、更には2013年秋に、国防副長官として訪印した時の発言を勘案すると、今後の米国の対中姿勢は我々にとっても目が離せない。

 昨年末にパリを訪れ1年ぶりに鈴木庸一駐仏大使とお目にかかった。同大使のボストン総領事時代から、筆者は大使のお人柄に惹かれ、機会あるごとにお話を聞かせて頂いている。ボストン時代はKSGの日本人フェローが主催する日米中親善寿司パーティーにも参加して頂いた。その時、同大使は中国の友人に対し、「日韓の在外公館がボストンに在るのに、なぜ中国は無いのか」等に関し丁寧に説明して下さった。そうしたお蔭もあって、中国に戻って活躍する友人とは、強い信頼関係を保てるようになっている。今回は、同大使から「ロシアの動きに対応を迫られる欧州に対し、中国が如何なる形で関与するのか」という点についてうかがった次第だ。

 鈴木大使に加え、パリでは多くの友人と面談したが「一体なぜ、また今なぜThomas PikettyのLe capital au XXIe siècle (『21世紀の資本論』)なのか?」と尋ねられたのが印象に残った。筆者は、「恐らくクルーグマン教授の解説が、米国、そして日本へと伝播したのが原因であろう」と答えた。そして今では同書を「30分で理解する...」といった本まで売り出されようとしていると伝えた。傑作なことに彼等は目を丸くし「970ページもある本を30分で理解するの?!」と驚いたので、筆者は「日本ではなぜか"30分で英語が話せる"といった本が多く売れる」、と伝えた。そして筆者は同書の中にバルザックのLe Père Goriot (『ゴリオ爺さん』)やジェイン・オースティンが言及されているから、日米で盛り上がるピケッティ教授のLe capitalを巡る議論を別にして興味深く読んだと応えた次第だ。


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