論文  財政・社会保障制度  2014.12.04

個人住民税特別徴収の推進の取り組みと今後の方向性

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2014年11月号に掲載

はじめに


 平成26年8月22日に全国地方税務協議会で「個人住民税特別徴収推進宣言」が出されたように、昨今の地方自治体は個人住民税の特別徴収の推進に力を入れている。地方税法では、給与所得者である従業員(納税義務者)が1名でもいる場合(常時2人以下の家事使用人のみに給与を支払う場合等を除く)、勤務先の事業者(特別徴収義務者)が特別徴収することを定めているが、これまで全国的にみて7割程度の達成に留まっていた。しかし、平成19年に税源移譲がなされ、これまで以上にどのように個人住民税の重要性が高まる中、特別徴収制度は従業員にも事業者にも、そして自治体にもメリットのある効率的な制度だということに、自治体が改めて気づいたことから、ここ数年推進に力を入れている。

 これまで特別徴収を強制指定するのは、ほぼ無理だと思われてきた。ほとんどの自治体は事業者に出向き、協力のお願いという形を取っていたり、事業者からの普通徴収の希望を容認してきたりしているので、特別徴収が原則であるにもかかわらず、どうしても立場が弱くなっている。

 特別徴収の強制指定が最も早かったのは、高知県安芸市である。安芸市は事業者に出向くことなく、指定の1年前に指定予告を行い、その翌年に強制指定を実行した。その後、安芸市の取り組みが他の自治体に知られるようになり、静岡県や熊本県では、安芸市の講演に参加し刺激を受けた県内自治体が率先して県に働きかける等して推進のきっかけを作っている。

 首都圏は他県と比べると後発であったが推進の動きがみられる。平成26年5月20日の第65回九都県市首脳会議では、埼玉県知事が個人住民税の特別徴収推進の連携を呼びかけた。各県のホームページ等をみると、埼玉県、茨城県、栃木県は平成27年度から、神奈川県と千葉県が平成28年度から一斉指定を予定しており、東京都も都全体で特別徴収を推進している。

 特別徴収が進まなかった理由は自治体によって多少異なる部分もあるが概ね同じである。それぞれの事情があったとしても法の遵守は大前提であり、工夫をしていくしかない。安芸市が出来たことが、他の自治体で出来ないということはない。そこで、これから特別徴収の徹底を目指して推進する自治体へのエールを込めて、先進自治体である安芸市、静岡県の取り組みを紹介し、特別徴収の課題と今後のさらなる発展について検討する。...


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