メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.07.22

投資低収益、日本こそ深刻、消費増を軸に突破を

日本経済新聞 「経済教室」2014年7月16日掲載

 ローレンス・サマーズ元米財務長官(米ハーバード大学教授)が昨年11月の国際通貨基金(IMF)の会議で論じて以来、米国経済の「長期停滞(secular stagnation)」が米国の経済学者や実務家を中心に話題となっている。

 同氏は2008年の金融危機以降、米国経済の回復が遅い理由として均衡実質金利(完全雇用の状態に見合う実質金利の水準)が長期的にマイナスになっているとの仮説を提起し、一因に労働力人口と生産性の伸び鈍化による投資需要の減少を挙げた。

 米国の長期停滞論は1938年にさかのぼる。当時のハーバード大教授、アルビン・ハンセンが大恐慌からの回復が弱く失業が解消しない状況を長期停滞と捉え、基本的な原因を人口成長率の低下による投資需要の減少に求めた。長期停滞の捉え方、投資需要の減少や人口学的要因を重視する点で、サマーズ氏の議論はハンセンの古典的な長期停滞論を継承している。

 批判的な意見もある。米スタンフォード大学のジョン・テイラー教授は回復の遅れは00年代以降の経済政策の失敗が原因と論じる。05年以前の過度の金融緩和と厳格さを欠いた金融規制がバブルとその崩壊をもたらし、その後の煩雑な規制、政府債務の累積、恣意的な金融政策が回復を遅らせているとの主張である。

 一連の議論は長期の歴史的視点からみた場合、どのように評価できるだろうか。図の上段は、長期停滞論で投資や実質金利の動向が重視されていることを踏まえ、米国の投資率(国内総生産=GDP=に占める総固定資本形成の割合)と、実質金利(長期国債の利回りマイナスGDPデフレーターの上昇率)を19世紀から直近まで示した。

 全期間を通じて連続したデータは利用できないため「アメリカ歴史統計」や米大統領経済諮問委員会(CEA)の報告書など、複数の資料から得たデータを接続している。

 まずサマーズ氏が注目する近年の動きをみると、08年の金融危機後に低下した投資率は、10年を底に回復しつつあるとはいえ、危機以前よりも低い水準にとどまっている。一方で、実質金利は金融危機以前より格段に低い1%未満まで下がっている。

 実質金利が低下するなかで投資率が低下していることは、設備投資がどれだけの収益を生むかについての見通しである投資の期待収益率の低下を含意している。サマーズ氏の長期停滞論は、この現象に基礎を置いている。・・・


→全文を読む

日本経済新聞 「経済教室」2014年7月16日掲載