コラム  国際交流  2014.07.17

崩壊に向かうオバマ政権とそれに続く金融の混乱

シリーズコラム『小手川大助通信』

1.5月19日付けで筆者は「窮地に立つオバマ政権」というタイトルで、2012年9月11日のベンガジ総領事の殺害について、当時大統領選挙中のオバマ陣営が偽りの発表を行い、これについて裁判所命令による情報公開が4月に行われた結果、5月2日に米国議会下院に本件を調査する委員会が設立されたということを報告した。下院民主党は委員会の候補者名簿を提出しないという形で暫く抵抗していたが、この抵抗も約2週間で終わり、5月末には委員会が発足して、これまで地道な調査をスタッフが行ってきている。


2.一方、6月23日の週に、本件について大きな動きがあった。この週にエドワード・クラインを筆者とする「血の確執(Blood Feud)」という題の本が、ヒラリー・クリントンのチーフオブスタッフであったシェリル・ミルズを主要な情報源として発売された。この中で、総領事が殺害された2012年9月11日の午後10時(米国東部時間)、アル・カイーダと関係するアンサール・アル・シャリアが前もって計画し、重武装した攻撃を総領事館に対して行い、総領事を殺害したとする詳細な報告をヒラリー・クリントン国務長官が受けた後に、オバマ大統領が直々に長官に電話して、事件の原因は預言者マホメットを中傷するビデオに対する自発的な抗議活動であったという発表を行うように命令した、と記述されている。同書によれば、長官は、事件が2002年9月11日の10周年を記念する復讐(アル・カイーダのナンバー2がこの年の夏に無人飛行機で米国政府により暗殺されている)であるという明確な情報があると抵抗したが、オバマ大統領は長官が直ちに偽りの発表を行うよう要求した。ヒラリーとビル・クリントンは、真相の発表は再選に大きな打撃となるとオバマ大統領は考えて偽りの発表を命令したのだという結論に至り、10時30分に長官は大統領の要求通りの発表を行った。


3.この書の発表後に、議会は7月4日から7日まで独立記念日の休暇に入ったが、休暇明けには、上記の委員会が、本件出版物中の記述の真偽について、ヒラリー・クリントンとシェリル・ミルズを証人喚問する可能性が極めて高い。偽証罪を問われる可能性のある証人喚問において上記の回想録の記述について問われた場合、両者とも、これを肯定するものと思われる。そうすると、ベンガジ総領事殺害事件についての偽りの政府発表に対する大統領の直接の関与が明確になり、ことは、ニクソン時代のウォーターゲート事件ときわめて類似する状況となる。


4.なぜ、この時期にクリントン陣営がこのような暴露をしたのであろうか。議会関係者によれば、2012年の選挙時に、オバマがクリントンに対して与えた、2016年の大統領選挙の際にはクリントンを応援する、という約束を、オバマとその周辺が最近に至り反故にしたからということである。いずれにしても、6月半ばに行われた、アメリカの主要なマスコミの世論調査では、オバマ大統領の外交政策は歴代大統領で最低の評価を与えられ、政策全体を通じても、これまで最低の大統領と同じ水準とされている。さらに、世論調査においては、オバマ大統領は、「戦後最低の大統領」に選ばれてしまっている。


5.仮に、以上のような理由から、オバマ大統領が退陣せざるを得なくなった場合、バイデン副大統領が大統領に就任することになる。そしてそれは、これまで、オバマ大統領とその取り巻きを最後の砦にしてきたウォールストリートの敗北を意味し、昨年暮れ以来、米国議会に提案されている、グラス・スティーガル法(銀行と証券の分離)の再導入に大きな力を与えることになる。この関連で特筆されるべきなのは、6月10日に共和党に激震を与えた、バージニア州の共和党予備選挙の結果である。予備選挙では、下院共和党で、下院議長であるベイナーに次ぐ地位を占めていた現職のエリック・カンターが、全く無名であった対抗馬のデイビッド・ブラットに破れた。ウォールストリートはカンターを応援し、550万ドルという彼の資金量はブラットの26倍にも上った。また、カンター陣営は大企業から多くの支援を得ていたが、トップ5の支援者はブラックストーンやゴールドマン・サックスなどのウォールストリートの金融資本であった。カンターの23名の有給スタッフに対し、ブラット陣営のそれは2名だけだった。ブラット候補はハーバードの卒業生だが、「共和党はウォールストリートに対して過度の注意を注ぐ一方、製造業などの産業界に対する注目が全く足りない。」とインタビューに答えている。


6.上記のような事態の進展から、銀証の分離を予測する金融界は、既に投資銀行部門の切り売りを始めている。分離となれば、そのためのデューデリジェンスをせざるを得ず、これを通じて投資銀行部門の膨大なデリバティブ依存体質や極めて脆弱な資産内容が明らかとなり、市場に激震が走る可能性が高い。我が国としても、このような最悪のケースを予想して、あらかじめ準備をしておくほうが良いものと思われる。