メディア掲載  国際交流  2014.06.23

中国で成功するビジネスモデルを考える-成都発・現地化によるイノベーションを生み出す仕組み-

JBpressに掲載(2014年6月19日付)

 5月下旬に中国内陸部の中核都市のひとつである成都を訪問した。その際に日本最大のコンビニエンスストアの現地法人を訪問し、そのビジネスモデルを牽引する日本人経営者の話を聞き、店舗を見学する機会を得た。

 そこには中国経済発展の原動力となっている内陸部で、日本のノウハウと中国人を活用した新たなイノベーションを融合させてビジネスチャンスを的確にものにする、したたかな日本企業の成功モデルがあった。

 以下ではその素晴らしいビジネスモデルを紹介したい。


成都発・日本型コンビニのイノベーション

 今回訪問した成都の現地法人が経営するコンビニには、現地で新たに考え出された数多くの工夫が盛り込まれた企画が満載だ。代表的なものは以下の通りである。

 第1に、お店の中に喫食コーナーが設けられている。十数人が座れる簡単なテーブルとイスが入り口付近に設置されており、そこで店内で買った弁当と飲み物を食べることができる。店内に十分なスペースがない場合には、店の入り口付近の外側にテラスのようなスペースが設けられている。

 ランチのピーク時になるとスペースが足らないため、付近のコーヒーショップのテラスでもコンビニで買った弁当を食べている客も多いとのこと。成都の現地法人では90店に迫る全店舗の8割程度がこの方式を採用している。

 第2に、日本であれば肉まん・あんまんや鶏のから揚げなどが陳列されている保温型ガラスケースはレジの隣の台の上に置かれているが、成都現地法人のコンビニではフロアから大人の背の高さくらいまでの背の高い大型保温容器が、2つから4つ並んでいる。

 それでもお昼時には需要に追い付かなくなるため、レジの奥に置いてある電子レンジをフル稼働させて、食品を温めて保温ケースに補給する。

 第3に、弁当の量が多い。成都のコンビニ弁当を手で持ってみると明らかにずっしりと重い。「どかべん」サイズである。これは1日のうちでも昼食で食べる量の方が夕食より多いのが一般的であるという成都の生活習慣に合わせたものである。もちろん女性用に日本サイズと同じ小ぶりの弁当も揃っている。

 第4に、おにぎりの具に激辛具材が用いられているものが多い。成都は四川省の省都。四川料理と言えば、麻婆豆腐、担担麺など激辛中華の代名詞である。成都の人々は日常的に普通の日本人では食べられないほどの激辛料理を好んで食べる。その嗜好に合わせておにぎりの具材も多くが激辛である。

 第5に、高級フレッシュジュースが売られている。日本であれば2人前もあるような「どかべん」サイズの弁当が1つ15.9元(日本円で260円程度)で売られているすぐ隣に、1本16元のフレッシュジュースが並べられている。

 ストロベリー、マンゴ、キウイなど4種類あり、分量は250cc程度の日本サイズである。このジュースは「開栓後4時間以内にお飲み下さい」との表示がある、正真正銘の100%フレッシュジュースである。

 日本人の感覚では大きな弁当と250cc程度のジュースがほぼ同じ値段で売れるのかと疑問を抱かざるを得ないが、実際には両方とも人気商品だそうである。これは日本人には理解しにくい。日本人が商品企画をしていれば、こういう品揃えは思いつかないはずだと思った。

 このほかにもまだまだいろいろ成都独自のイノベーションがあった。


現地化イノベーションを生み出す仕組み

 これらの新たな企画は全て、現地の中国人の商品企画担当者たちが考案したものである。日本人経営者の役割は、彼らの創意工夫を促す一方で、変えてはならない日本流の基本コンセプトを保持することだ。

 接客態度、食品の専属工場での生産、効率的な納品共同配送システムなどは日本のコンビニで培ったノウハウをきちんと継承させている。その上で、現地の中国人から出される斬新な提案をどんどん取り入れ、イノベーションを実現している。そのバランスの妙は見事としか言いようがない。

 現地化の難しさは、新たな創意工夫と変えてはならない基本コンセプトの両者の間のバランスのとり方にある。中国ビジネスに取り組んでいる日本企業に関しては、中国人の企画力を活用した創意工夫が不足しているケースが殆どである。

 現地から提案される様々なイノベーションをビジネス上で実践するのは容易ではない。通常は製品・サービスの内容について日本の本社の関連事業部が細かくチェックし、現地の自由裁量は大幅に制限されることが多い。

 上記コンビニの成都現地法人に関しては、成都現地の経営トップにすべての権限が委譲されている。日本企業としてはかなり珍しい事例である。上記で紹介したような様々なイノベーションが実践されているが、本社からの干渉は一切ないそうである。

 これは本社のトップ経営層の高い判断力と現地法人の経営トップの実力が相俟って相互信頼が実現しているからこそ可能となっている、勇気ある経営モデルである。

 現地トップは自由裁量が許されているからこそ、自由度も高いが、結果を出す責任も重い。この相互信頼に基礎を置く、いい意味での緊張感が現地の中国人スタッフにも伝わって、全体としての好循環を生んでいるものと考えられる。

 このようなビジネスモデルこそ、今後日本企業が急速な変化の続く中国国内市場で勝ち抜いて行くための典型的成功例となると実感した。


日本企業が注目する成都の経済

 成都市は重慶市、西安市と並んで、中央政府が国家事業として推進する西部大開発プロジェクトの中核拠点である。地形としては広大な盆地であるが、気候は1年を通じて温暖で、夏は比較的涼しく、冬はそれほど寒くならない。周辺は広大な平野が広がっているため、工業開発区の拡張は容易である。

 その地の利を生かして、自動車産業が急速に発展しているほか、電子産業がそれと並ぶ重要産業である。2008年以降加速している西部大開発プロジェクトによりインフラ整備、税制優遇、産業集積促進策等が実施され、ここ数年は常に全国平均を上回る高い成長率を実現している。

 今後も内陸部の中核都市として多くの有力日本企業が注目する重要産業拠点である。現在、成都に進出している主な日本企業が会員となっている商工クラブの会員企業数は130社程度であるが、今後成都に進出する日本企業は増加傾向を辿ることが予想される。

 成都に常駐する日本人にとって、日本のコンビニの存在は心強い味方である。それと同時に現地化によるイノベーションを見事に活用し成功しているビジネスモデルは、多くの日本企業にとって現地化のあるべき方向性を教えてくれる貴重な存在でもある。


中国で成功するビジネスモデルとは

 最後に、上述のコンビニ成都現地法人に見るビジネスモデル成功の要因について整理すれば、以下の4点を列挙することができる。

 第1に、現地の市場特性の見極めである。中国は地域によって産業構造、所得水準、生活習慣、食文化等が大きく異なる。この地域特性を見極め、現地のニーズに合った製品・サービスをきめ細やかに提供することが必要である。

 第2に、急速な構造変化への迅速かつ的確な対応である。中国は高度成長が続いているため、とくにその原動力となっている内陸部の主要都市では所得水準および産業構造の変化も急速である。そうした急速な市場構造の変化を正確に見極め、的確に対応することが求められる。

 第3に、現地化による中国人のイノベーション力の活用である。中国人のニーズは中国人にしかわからない。とくに地域特性に適合したきめ細やかな商品企画は日本人には不可能である。グローバル企業がしのぎを削る中国国内市場での激烈な国際競争で生き残るには現地化によるイノベーション力の強化は不可欠である。

 第4に、現地への権限移譲である。以上の3点を実現するためには、現地の経営トップに対して大胆に権限を委譲する勇気が本社のトップ経営層に求められる。同時に、その期待に応える実力を備え、本社との相互信頼関係を構築できる現地の経営トップの存在が不可欠である。

 今回紹介した上記のコンビニ現地法人は、以上の4点を見事に実現し、素晴らしい業績を上げている。今後、こうした日本企業が様々な産業分野でどんどん増えていくことを心より期待したい。