コラム 国際交流 2014.03.06
2月は(a)中国の天則経済研究所、(b)デンマークの王立国防大学、(c)韓国の高麗大学から優れた専門家をCIGSに迎え、西太平洋の平和と繁栄に関して様々な論点・視点を学ぶ事が出来た。平和と繁栄は誰もが望むものだが、節度と努力を欠けば我々のもとから瞬時に消え去ってしまう。昨年6月のベルリン出張時、「尖閣諸島国有化で緊張が更に高まる中、日系企業は中国で如何なる姿勢を採るのか?」と質問を受けたが、これに対しセブン&アイHDの伊藤雅俊名誉会長のお言葉を引用しつつ状況を説明した次第だ。
(2012年夏)焼き討ちに遭う覚悟はしていました。そのぐらいの覚悟がなければ、中国に進出...出来ません。最悪の事態を避けられたのは、日頃から地元の関係者と良好な関係を築いてきたからです。大きかったのは警察だけでなく、国務院の管轄下にある公安との連絡を密にしていたことです。成都にある多くの店舗は大勢のデモ隊に取り巻かれましたが、公安が警備を強化していたため、デモ隊は店に近寄れなかった (『文藝春秋』 2013年5月号)。
繰り返しになるが平和と繁栄は我々の節度と努力次第だ。またそれらを失った時、取り戻す努力が必要だ。これに関し歴史は遡るが日米開戦直後の三菱の総帥岩崎小彌太の言葉は参考になる--岩崎社長はまず「これまでは国際関係に関し様々な主張をしてきたが一旦戦争が始まった以上、上下協力して努力すべき」と述べ、続けて2つの注意点を示した (三菱社社長訓話 (三菱協議会 1941年12月10日) 『三菱社誌』第38巻)。
第一に応急策に専念するあまり長期的対策に手抜かりが発生する危険がある。従って大局観をもって冷静沈着に百年の長策を考えることを望む。第二に英米の旧友に対する配慮だ。彼等とは従来提携を通じ利害を共にしたが、今、不幸にして交戦国として分れる形になった。が、古いよしみは消滅させるべきでなく、国法の許す限り敵国の友人の身辺・権益を擁護するのは、道義を重んじる日本人の情義であり責任だ。将来平和が戻る時には、両者は互いに提携して再び世界平和と人類の福祉に対し貢献する機会が訪れるであろう。
(原文: 一(ひとつ)は...應急の策に專念するものが動(やや)もすれば永遠の計を立つるに遺漏(いろう)あるは...古今の通弊なり...されば轉變する世界の状勢に對處し...大局を達觀し...冷靜沈着常に百年の長策を...最も切望する。二(ふたつ)は英米の舊友に對する心得是なり。在來...提携せるものに幾多の英米人あり。彼等は...我等の友人として同一の事業に提携し同一の利害に終始し來れるものなり。不幸にして干戈(かんか)相見ゆるの兩國籍に分屬す...。舊誼(きゅうぎ)は...滅す可きに非らず、されば國法の許す限り彼等の身邊と權益とを擁護す可きは是亦道義に立脚せる我等日本人の情義にして且責務なる可し。他日平和克復の日來らば...兩者相提携して再び世界の平和人類の福祉に裨補(ひほ)するの機至る可きなり。)
この訓話に基づき三菱電機は戦時中、1923年以来技術提携していたウェスチングハウス社(WEC)に対し、保有株式とライセンス料を完全に保護した。果たして敗戦後、WECの副社長は、占領軍総司令部に意見書を提出し、財閥解体の渦中にあった三菱電機を会社分割と社名使用禁止という危機から救った。かくして情義と責務を考えれば、平時・戦時にかかわらず、旧誼を滅せず道義を重んじる事こそ大切なのだ。
また平素から万が一の事態を想定し、それを防止する努力が必要だ。冒頭触れたベルリン出張時に筆者は次のように語った--「1931年9月10日、英国のセシル卿は国際連盟総会で、"今日ほど戦争が起こりそうにない時代は世界史のどこをみてもなかった"と述べた。9月17日、北京駐在の矢野眞参事官は、米国のネルソン・ジョンソン公使に対し、"日本の満州での軍事行動は考えられない"と述べた。ご存知の通り、翌18日には関東軍が単独行動を開始した。だから平和への弛まぬ努力と深慮の危機管理が大切だ」、と。