メディア掲載 国際交流 2014.02.21
2013年12月26日、安倍首相の靖国神社参拝のニュースが流れると、中国現地の日本企業では一斉に不安と緊張が走った。12年9月の尖閣問題直後の反日デモ・暴動、その後の日本製品ボイコットの記憶は今も生々しく残っている。靖国参拝報道の直後から中国各地の日本大使館・総領事館、ジェトロ、日本企業などは横断的に連携して緊急事態に備えた。中国全土で数十万人に達する日本人現地駐在員とその家族は極力外出を控えるなど危険回避の防衛策をとり、不安な日々を過ごした。
ところが、意外なことに、今回は反日デモもなく、店舗や工場の焼き討ちも発生せず、日本車を傷つける嫌がらせも日本製品ボイコットも起きなかった。少人数のグループがデモを組織しようとしたが、当局により取り押さえられたとの情報もあった。中国各地の日本企業、日本人は何事もなく年末を迎え、年明け後、徐々に安心感が広がった。春節(旧正月)の連休(1月31日~2月6日)が近づいた1月下旬頃、多くの日本企業や日本人駐在員はようやく心の緊張を解いて安心できる状態を回復した。それのみならず、春節休暇では中国人富裕層の間で北海道などの日本旅行が大ブームとなり、上海-札幌往復のエコノミークラスのチケット代金は通常時の4倍にまで高騰した。この状況は尖閣問題発生直後の経済交流の深刻な停滞とは様変わりである。
その一方、中国のテレビや新聞報道では連日のように安倍首相および日本政府を厳しく非難する番組・ニュースが続いている。日本人への憎悪の気持ちを掻き立てる抗日戦争のドラマの頻度も増えたと聞く。世界各地では中国政府による日本政府批判宣伝工作が繰り返されている。そうした中国メディアや中国政府の姿勢を見れば、現在の日中関係は尖閣問題直後に比べてさらに悪化し、過去最悪の状態にあることは明白である。
この政治面と経済面で鮮明な対照をなす対日姿勢は中国政府が政経分離の方針を採っていることを示している。政治的に目立たない限り、日本企業の経済活動は制限しない。地方政府と国有企業についても日本企業との交流に制約を設けない。こうした対日方針が様々な事実から明らかになっている。
今回の政経分離の方針には次のような背景があると考えられる。昨年以降、金融当局による銀行貸出に対する管理が厳格化され、投資拡大が抑制されたうえ、尖閣問題の影響から日本企業の対中投資も伸び悩んだ。一方、中国国内市場のニーズは品質重視志向が強まり、安心・安全、ハイテク、高品質のイメージが定着している日本企業の進出への期待は強まっている。経済発展の地域間競争でトップを争う広東省、江蘇省では投資拡大を目指し、日本企業誘致に極めて積極的だ。地域経済の発展は、習近平政権の安定性を高めるうえでも重要である。日中関係は最悪でも日本企業の投資は必要なのである。
昨年10月以降、新型車投入の成功を背景に、中国市場で日本車販売が好調を持続しており、今後日本の対中輸出・直接投資は拡大の方向が予想されている。こうした状況が順調に続けば、近い将来小泉政権時代と似た政冷経熱に向かう可能性もある。
日中関係悪化の下でも活発な民間経済交流が維持されていれば、関係修復の方向に転じた後の動きは速い。これは政冷経熱の小泉政権時代に凍りついていた日中関係を一気に融解させた第1次安倍政権が実証済みだ。過去最悪の日中関係の下、今は日本企業が日中外交の主役である。