メディア掲載  国際交流  2013.12.27

"外交的感覚"研ぎ澄ます時

電気新聞「グローバルアイ」2013年12月25日掲載

 読者諸兄姉に今年最後の筆者の浅見を出張先のロンドンからお伝えする。今月初旬、成田でパリへのフライトを待っていた筆者は、見慣れぬ光景に驚いた。制服姿の高校生が、筆者と同じ便に搭乗するらしい。筆者の頭の中にある修学旅行といえば、海外では隣国の中韓両国、筆者自身の体験では松島や善光寺だ。搭乗を待つ間、パリに赴任するという会社員の方と高校生達を眺めつつ時代の移り変わりを語り合った。

 日本人の内向き志向が懸念されているが、全国修学旅行研究協会によれば約15万人の高校生が海外修学旅行を体験し、目的地別では、韓国を筆頭とするアジア・太平洋諸国が約10万人、ハワイを含む北米が約3万人、フランスを筆頭に欧州が約1万人となっている。グローバル時代を迎えた現在、国内だけでなく海外各地も訪れて、彼我の違い、日本の長所と海外から学ぶべきところを、多くの若者が各人各様に体感してもらいたい。

 海外情勢を見渡すと、信頼と不信との間を激しく揺れ動く日中関係に加え、米中関係も緊迫している。しかもアジアにおいて米国一極時代の終焉を印象づける事態が日々展開している。これに関し、米国の調査機関(ピュー・リサーチ・センター)が今月発表した米国の対外関与と中国の対米観に関する資料は興味深い--①米国民の約7割がグローバル化の進展に賛同する一方、グローバル化する世界で「米国は自国の利益追求に専心すべき」と考える国民の割合が戦後初めて5割を超えた。また②中国の政府関係者の約8割、そして一般国民全体の約4割が、アジアにおける米国の軍事的プレゼンスを危険視しているという。

 戦前、ウィルソン米大統領の側近、ハウス大佐が外交官時代の吉田茂首相に「ディプロマチック・センスのない国民は必ず凋落する」と警告したのは有名な話である。深化するグローバル化の中で、国際公共財の提供よりも自らの国益に専念する誘惑に駆られる米国と、対米警戒感を強める中国のはざまに置かれた日本は、今こそ"外交的感覚"を研ぎ澄ませて、平和と繁栄を追求しなくてはならない。

 だが考えてみればハウス大佐が語った通り、いつの時代も"外交的感覚"を働かせなければ動きの激しい世間を渡り切れないことは明白だ。三菱商事中興の祖と呼ばれた藤野忠次郎社長は、「日本人同士で酒を飲んだりマージャンをしている方が、外人達と一緒にやるよりは面白いし、気楽だ」と言いつつ、「これからは国際感覚をもっていなければ国内商売だってこなせない」と語っている。そして「何もしない悪=不作為の悪」を戒め、海外ビジネスに果敢に挑戦していったのだ。すなわち内外の厳しい視線を受けつつも、藤野社長は朴正煕大統領との信頼関係を貫き、日韓両国の互恵的発展に民間部門から貢献した。また中国においては、韓国・台湾と取引する企業とは商行為をしないと宣言した周恩来総理が強いた苛酷な「周四原則」の下、台湾からの節度ある撤退を行い、中台双方からの信頼を築き上げたのだ。こうした信頼を軸に藤野社長は、米国を中心に政・財・官・学という層の厚い情報ネットワークを海外に構築し、結果としてニクソン・ショックやオイル・ショックの予兆を誰よりも早くまた強く感じることが出来たのである。

 吉田首相や藤野社長が語る"外交的感覚"を、我々自身が行動で示すことが第一であるが、若者達にそれを身に付けてもらうことこそ、日本及び世界の平和と繁栄を持続・拡大させることだと信じている。