先月中旬、習近平政権の政策運営の基本方針となる三中全会(正式名称は中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)の決定が発表された。
それを受けて今月中旬に開催された中央経済工作会議において、来年の経済政策の基本方針が決定された。以下では来年の経済政策運営の主なポイントを紹介するとともに、構造改革上の課題について考える。
■来年はマクロ経済の安定を保持しながら経済改革を推進
まず、大方針として、来年を全面的に改革を深化させる最初の年と位置付け、マクロ経済の安定を保持しながら各方面の経済改革を推進することが強調されている。従来のGDP成長=経済発展という単純な考え方を改め、経済発展の質を重視し、後遺症を伴わない発展速度を保つべきであるとした。
これはリーマンショック後の緊急経済対策によって巨額の不良債権が生まれたことへの反省に立ち、不動産開発やインフラ建設投資への融資に際しては、案件の中味を十分審査し、同じ過ちを繰り返してはならないとする戒めである。
同時に、本年上半期までに残高が急増したシャドーバンキングについても、7月以降当局が監視を強化しており、今後もこれを継続する方針を表明したものと考えられる。
マクロ経済政策としては、引き続き積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施する。金融面では、金利の自由化および為替レート形成メカニズムの改革を目指すとしている。すでに今月から大手銀行に対して、上海銀行間市場金利連動型のCD(譲渡性預金)の発行が解禁された。近い将来為替レートについても規制緩和が実施されることになろう。
■注目される改革メニューはいずれも難題
以上のようなマクロ経済政策に関する大方針に続いて、個別分野に関する改革メニューが掲げられている。このうち従来から問題の所在が明らかであるにもかかわらず解決が先送りされてきた重要課題として注目されるのは以下のポイントである。
第1に、過剰生産能力の解消への注力である。これについては三中全会の決定の中でとくに強調された、「資源配分において市場メカニズムに決定的な役割を担わせる」という方針を掲げている。
従来、鉄鋼、造船、ガラス、太陽光パネル等の産業では市場のニーズに合わない過剰な生産設備と製品の過剰在庫を抱えて業績が悪化していた。本来であれば、そうした企業は倒産させるか、即座に生産縮小と設備廃棄を実施すべきである。
しかし、それは雇用・税収両面において企業の地元の地域経済への悪影響が大きいことから、地方政府が企業に補助金を与えて操業を維持させるケースが多かった。それが過剰設備の処理を遅らせる原因となっていた。
今回の決定では、そうした行政による干渉を減らし、市場メカニズムに委ねて過剰設備・在庫の処理を進めるべきであるとしている。これは従来からわかりきっていた対策である。それが地元政府の抵抗により実施できていなかった。これまで続いてきた地元政府の抵抗がすぐに弱まるとは思えないことから、その実現は容易ではない。
第2に、環境規制の強化である。従来から環境基準を満たさない中小の鉄鋼メーカー等は整理の対象とされてきたが、それでも次々と新たな鉄鋼メーカーが新設されたため、過剰設備の解消は遅れていた。
それは地元政府による環境規制の運用が甘かったことによるものである。その他の業種でも多くの企業が公害を垂れ流しながら、罰金を払うだけで操業を続けていると言われている。
そこで今回は環境基準を満たしていない企業に対する法律執行を強化し、違反企業は厳罰に処する方針を掲げた。これが文字通り厳格実施されれば、多くの企業が操業停止に追い込まれる。しかし、この点についても地方政府、国有企業等の強い抵抗が予想されることから、政策の徹底実施は容易ではない。
第3に、住宅問題の解決である。北京、上海、広州、深圳といった大都市では不動産価格が高騰しているため、一般庶民が普通に通勤可能な圏内で、ある程度快適に住める住宅を購入することは殆ど不可能である。これに対する国民の不満は極めて強い。
その対策として来年は、公団等の低賃料賃貸住宅の供給を増やすとともに、主要大都市では住宅地比率の拡大、容積率の引き上げ等により住宅供給量を増加させる方針を掲げた。
これらの政策措置は一定の効果を発揮すると期待できるが、主要大都市における住宅手当難の現状を抜本的に解決する決定打にはなり得ないと思われる。
実は中国の住宅問題の根本的な原因は極端に大きい所得格差にある。今のような所得格差が存在する限り、一般庶民は大都市通勤圏で、ある程度快適に住める住宅を買えない状態が永遠に続く。
問題の抜本的解決のためには、所得税の累進課税の最高税率の引き上げ(現在は日本の50%より低い45%)、現在は無税となっている相続税・贈与税の導入、現在は上海と重慶だけで課税されている不動産保有税の全国一律適用と税率の引き上げなどの施策が必要である。しかし、今回の決定にはそうした施策は盛り込まれていない。
これらの抜本的解決策の導入には富裕層からの強い抵抗がある。そのためか、三中全会の決定で言及されたのは不動産保有税のみだった。しかも、それすら来年の政策には盛り込まれていない。
以上3点の重要な改革メニューを見る限り、方針としては改革実行が掲げられているが、実際に具体的施策を実行に移すのは極めて難しい。住宅問題に至っては抜本的解決策が提示すらされていない。こうした状況を見ると、習近平政権の改革実行力は依然未知数であると言わざるを得ない。
■日中両国とも構造改革の断行が難題
日本では安倍政権が発足してまもなく1年になる。その間、アベノミクスは一定の成果をあげ、足許の景気はやや明るさを取り戻しつつある。しかし、アベノミクスの最重要部分は第3の矢と呼ばれる成長戦略である。効果的な施策が提示され、迅速に実施されなければ、足許の景気拡大が短命かつ小幅なものに終わる可能性が高い。
しかし、安倍政権発足当初から成長戦略の核心部分と期待されていた、法人税の25%前後への引き下げと社会保障支出の削減による財政健全化という2大政策は採用されていない。
安倍政権下での本格的な日本経済復活を期待していた経済界の失望は大きい。このままでは日本経済は再び「失われた20年」の長期停滞から脱却することができなくなる。
安倍政権が安全保障基盤の強化を実行した意義は大きい。しかしそれだけでは国内外における信頼確保には不十分である。日本にはどうしても経済力の復活が必要である。それを実現できなければ、安倍政権に対する国際的評価、国民の支持率は低下し、政策運営も難しくなる。
一方、習近平政権が来年の経済政策の中で、構造改革の実施を先送りすれば、中国でも政権に対する失望が高まり、習近平政権の求心力低下は不可避となる。それとともに共産党の一党独裁体制に対する信任も根底から揺らぎ始める。構造改革を先送りすれば、そのツケは日本以上に大きい。
このように安倍政権と習近平政権はいずれも経済構造改革の難題の前に立たされ、その壁を突破する力が不安視されている。
2015年前後には日中韓3国のGDP合計値が米国のGDPを上回る見通しであり、東アジアは世界経済のリーダー的存在となる。その中核にある日中両国のグローバル経済に対する責任はますます重くなる。そうした責務を全うするためにも、安倍総理、習近平国家主席ともに不退転の決意で経済構造改革を断行することが期待されている。