メディア掲載 国際交流 2013.12.03
昨年11月15日に習近平氏が中国共産党の総書記に選出された。それからちょうど1年後の11月15日に三中全会の決定内容の全文が公表され、習近平政権が取り組む課題と基本方針が明らかにされた。予想されていた改革メニューがほぼ盛り込まれ、経済活動における政府の介入を縮小して市場の役割を高めることへの強い決意も表明された。いよいよこれからが改革断行の本番である。
この1年の間に、すでに2つの重要な改革が動き出している。1つは反腐敗キャンペーンの実施である。中国の役人に絡む過剰接待の是正等に大きな効果を発揮している。これは習近平政権の政治基盤の強化につながるほか、今後取り組みが積極化すると期待される国有企業改革において、抵抗勢力の排除にも活用できると見られている。
もう1つは中国(上海)自由貿易試験区の設立である。これは9月29日に除幕式が行われたばかりで、まだ具体的な成果は見えていないが、上海の経済界を中心に大きな期待が盛り上がっている。
この試験区の重要な特徴の一つは、事業として認められないことがネガティブリストの形で列挙されていることである。これは米国政府の強い要求を呑む形で実現した。中国では通常、国務院が新たな事業分野に関する規定を発表し、各企業はその規定の範囲内で事業を行うことが認められる。ポジティブリスト型の規定である。しかし、この試験区では事業範囲や詳細な規定が指定されておらず、何をやるかは企業の創意工夫に委ねられている。もちろんネガティブリストに引っかかれば認可されないが、個々の事業がそれに引っかかるかどうかという解釈・判断を含めて、事業者側から試験区の管理委員会に対して提案することができるのである。
上海市には改革開放政策成功のシンボルとなっている浦東新区の開発を成功させた実績がある。今後も改革開放政策を経済構造改革の原動力とする方針が堅持されるのは、三中全会決定を見ても明らかである。つまり、国内企業とともに外資企業が積極的な役割を果たすことが期待されているのである。上海市自身も試験区の設立を機に外資企業の上海への進出が拡大することを強く望んでいる。
日本企業に対しても、すでに上海市政府幹部から様々なルートを通じて積極的な取組を期待する意向が伝えられている。そうした意向を受けて、11月1日には上海総領事館がリード役となって、上海の日本企業の団体である日本商工クラブおよびジェトロと一緒に自由貿易試験区の管理委員会を訪問し、第1回目の意見交換を行った。
政府機関だけではなく、民間企業を巻き込む形で試験区内の事業認可の仕組みに関する情報共有を進めていくのは素晴らしい取り組みである。民間企業にも経済外交の一翼を担う意識が高まり、より積極的な当事者意識が醸成される。将来何らかの理由で再び政府間交流に支障が生じても、民間企業が両国間のパイプの役割を果たすことも期待できる。
今後、こうした試験区が深圳、天津、西安、重慶など中国各地で展開されれば、日本企業はそこでも同様の役割を担うことが可能となる。それは日本企業と地方政府との安定した対話の場を生み出す。
上海でスタートした自由貿易試験区が再び日本企業の対中直接投資の勢いを回復させる強力な起爆剤となるとともに、中長期的には日中両国間の対話の場を確保する上で民間企業の果たす役割を高める効果にも期待したい。