メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.08.05

企業の価格設定行動カギ-値上げ浸透は不十分-

日本経済新聞 「経済教室」2013年7月31日掲載

 デフレ脱却に向けて、政府と日銀が一体となって取り組んでいる。日銀は本年1月に2%の物価目標を打ち出し、4月には異次元の金融緩和により物価目標を2年以内に達成するとアナウンスした。人々の物価予想にも変化が現れつつあり、企業の側も、小麦粉、マヨネーズなどの商品で出荷価格を引き上げる動きがある。消費者物価指数(CPI)も、これまで前年比でマイナス基調だったが、6月には0.4%のプラスに転じた。
 しかし、最近の動きは電力料金やガソリンなどの値上がりによるものであり、幅広い商品で価格上昇には至っていないとの見方も根強い。実際、スーパーの販売商品を対象として「東大物価プロジェクト」が作成している日次物価指数は7月26日時点で前年同日比0.9%の下落であり、下落幅は徐々に縮小してはいるもののそのペースは緩慢である。メーカーの出荷価格引き上げが末端価格まで十分に浸透していないことを示唆している。こうした中、2年で2%という物価目標の達成は困難との指摘も聞かれる。

 大恐慌期における米国のデフレについてはバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長をはじめとする研究が蓄積されている。大恐慌期の米国でデフレ脱却に成功するカギとなったのはルーズベルト大統領による政策転換であった。それまでの金本位制、均衡財政、小さな政府から決別し、金本位制の放棄とドル切り下げ容認に踏み切ると同時に、拡張的な財政政策を採用した。この結果、人々のデフレ予想が払拭され、インフレ予想が定着した。
 重要な特徴は、個別の金融・財政政策のアクションではなく、政策形成のゲームのルールを替えること、つまり、政策レジーム(体制)の転換であるという点だ。しかも、その転換を徐々にではなく、突然行った。安倍晋三政権の施策は、政策をパッケージとして変更しようとしていることと、短期間での転換を志向している点において大恐慌期の政策レジーム転換に近い。・・・



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日本経済新聞 「経済教室」2013年7月31日掲載