コラム  国際交流  2013.08.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第52号(2013年8月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 訪日した米国の友人が日本の政治家に関して興味深い質問をした。それを読者諸兄姉にご紹介したい--「民主党が総選挙で大勝した4年前、君は論文("Japan's General Election: A Political 'Zugzwang'?")の中で政治家の経験不足を懸念していたけれど、今回はどう?」。これに対する筆者の反応は次の通りだ--「アセモグルMIT教授が述べた如く政治は本当に難しい(小誌前号の2を参照)。偉大な大統領セオドア・ルーズヴェルト(TR)でさえ最初は素人だったじゃないか。TRは、戦略家のマハンや歴史家のブルックス・アダムスに加え、政治家のヘンリー・ロッジ等の内外諸情勢に詳しい人々から優れた助言を受け入れたからこそ、欧州列強と対峙する際、"Speak softly and carry a big stick"に代表される巧みな外交を採り得たと理解している」、と。

 こうして日本の政治家が、世界情勢を慎重に吟味する専門家と戦略家の意見を参考に賢明な政策を積極果敢に実施してゆくことを一国民として願っている。さて、好奇心旺盛な友人は次のような質問もした--「昔、君に教えたフランクリン・ルーズヴェルト大統領(FDR)の記録を覚えている? FDRは、"二流の知性と一流の気質"を具えた男(a man with "a second-class intellect but a first-class temperament")と呼ばれた。それでも、大統領就任前から日本を含む海外の専門知識は相当あったよね。一方、日本の政治家は...」、と。確かにFDRは①ウィルソン政権時に海軍次官を務め、また②少年時代からマハンの著作を熟読し、③ハーバードに進学する前の名門グロトン校時代、米国のハワイ領有に関する討論会で活躍し、更には④1905年の夏、新婚旅行で欧州に向かう船上では、偶然同乗した6人の日本帝国海軍将校との会話に夢中になるあまり、そのことを新妻エレノアが義母のサラに宛てた手紙の中で苦言を呈したほどであった(例えば、William Neumanの"Franklin Delano Roosevelt and Japan, 1913-1933" (Pacific Historical Review, May 1953)やGreg RobinsonのBy Order of the President: FDR and the Internment of Japanese Americans (Harvard University Press, 2001)を参照)。

 7月上旬、北京で友人達と"安倍经济学(Abenomics)"や"李克强经济学(Likonomics)"に関して冷静かつ知的な会話を楽しんだ。両国の政治家が稚拙な"zugzwang"--ツークツヴァンク/强制被动: 即ち、チェス用語で自分の状況が更に悪化する一手しか指さざるを得ない状況--に陥らないよう両国の幸運を願ってやまない。


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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第52号(2013年8月)