コラム  財政・社会保障制度  2013.07.02

海外療養費不正受給を防ぐには―パスポートチェックと認定翻訳者―

1.海外療養費とは
 先日、あるタレントの父親が国際手配されたことをきっかけに、注目されるようになった「海外療養費の不正受給」だが、多くの人にとっては、初めて聞く話だったのではないだろうか。しかし、一部の自治体では、すでに問題視されていた。
 海外旅行に行く際に、病気や事故に備えて、民間保険会社の旅行傷害保険に加入するのは一般的であるが、国民健康保険(国保)や企業の健康保険(社保)にも「海外療養費制度」が設けられており、審査で認められれば、海外での診療費の一部を支給してもらえる。つまり、旅行に行く際に加入した民間の保険同様に、自分の加入している健康保険に請求できる制度である。
 どの保険でも不正受給の起きる可能性はあるが、長期間、海外に滞在すれば、医療機関に行く可能性も当然高まる。社保は基本的にサラリーマンを対象としているため、長期休暇がとりにくく、仮に不正したとしても小額になると考えられるが、国保の場合は、事業者(企業)の正規雇用者ではないため、社保に加入できない多様な者が加入する制度であり、加入者によっては、長期出国が可能となりやすいので、国保は特に注意が必要である。


2.海外療養費の不正受給を防ぐには-すぐに自治体職員がやれること-
 どのようにしたら海外療養費の不正受給を防ぐことができるだろうか。
 最近では、数か国のいくつかの病院に関する申請が疑わしいと特定できるようで、ある地方のA市に聞いたところ、3年間で30件程度の申請があったうち、11件が該当しているそうである。同じ翻訳者で書式も一緒という特徴があったそうである。
 海外療養費の請求の仕組みは以下のとおりである。まずは必要書類を揃えて出国し、民間保険の請求と同様、海外では全額を支払い、かかった医療機関で、持参した「診療内容証明書」や「領収明細書」などに、治療内容や医療費の内訳の証明をもらう。そして、帰国後に住んでいる自治体の国民健康保険の窓口に、もらってきた書類を添付し、保険証と印鑑を持参して申請を行う。その際、外国語で記入されたものは、翻訳をつけなければならない。
 現状の仕組みから、自治体職員が今すぐにやれることを検討した。
(1)パスポートチェックを行う
 どこの自治体でも、保険証と印鑑は持参が義務付けられているが、パスポートのチェックは義務づけられていない。しかし、パスポートがあれば、写真付きなので、窓口にきた人が本人かどうか確認でき、本当にその国に行ったのかどうか、出国と入国のチェックもできる。またスタンプには日付も記載されているので、入院期間などもチェックもできる。今は、義務化されていないが、持参項目に付け加えたらどうか。 

(2)翻訳者を特定する
 必要書類が外国語で書かれた場合には、必ず翻訳をつけなければならない。国や自治体が審査し、面談し、認定した翻訳者ならば不正は防げるのではないか。A市では、2001年の導入当初、申請者に対して、必ず大使館を通じて、大使館付きの翻訳者に翻訳してもらうことを要請していたそうである。このように、各自治体によって、身元が保証された翻訳者を介せば、その翻訳者に依頼する手間を勘案すると、不正の抑止にも繋がるのではないか。

(3)申請書類はダウンロードをやめて、窓口で配付する
 現在、自治体によっては、申請書類がダウンロードで入手できるが、不正のケースでは、そのダウンロードで入手した書類が使用されていることが多い。それを防ぐためには、ダウンロードによる配付をやめて、窓口による配付のみにしたほうがよい。その際にも本人確認や渡航先、期間、目的など本人確認と最低限の情報は入手するのが望ましい。

(4)不正の傾向を分析する
 国保で海外療養費が適用されるようになったのは、2001年1月1日からと他の制度比べて日が浅いため、自治体によっては処理数が少ないところもあるだろう(健康保険の海外療養費が開始されたのは1975年)。国保は社保と違い加入者のパターンも多い。なかでも、昨年7月の住民登録法の改正により、3か月以上滞在した外国人も国保加入ができるようになったため、さらにバリエーションが広がっている。そこで、最近の状況もふまえて、不正の実態と傾向を自治体間で共有していったほうがいいだろう。


 今回取りあげた、海外療養費のほかにも、生活保護費、障害者手当など不正受給の話がニュースにならない日はないというくらい、不正受給は頻繁に発生している。性悪説にたって、すべての人を疑う必要はないが、不正を防ぐ水際の対策として、すぐにできることは、すぐに行ったほうがよいだろう。