メディア掲載  国際交流  2013.06.07

国際的地位 後退予測の衝撃

電気新聞「グローバルアイ」2013年6月5日掲載

 4月にロンドンを訪れ、シティ(金融街)に在る友人のオフィスを訪れた際、「3月31日のレースではオックスフォード大学が雪辱を果たしたね」と同校出身の彼に話しかけたところ、次のような皮肉を言われた--「BNYメロン・ボートレースのように、オックスフォード・ケンブリッジ両校が互いにスポーツで切磋琢磨することは良いことだ。でもアジアは今、軍拡競争で忙しいね」と。


 確かにアジア諸国は台頭する中国を筆頭として軍拡に忙しい。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が3月に発表した統計によれば、世界の武器輸入に関するアジア太平洋地域のシェアは47%、しかも上位5ヵ国は、インド、中国、パキスタン、韓国、そしてシンガポールとアジア諸国が独占している。かくして我々は、好むと好まざるとにかかわらず、猜疑心渦巻く厳しいグローバル社会の中で生きている。

 ところでミサイルや戦闘機、そして戦闘機用の燃料を海外から調達する際には外貨が必要となる。従って国際関係を研究する専門家は、武器・戦費調達を念頭に、経済力を名目GDPで比較し、主として購買力平価(PPP)で比較する国際経済の専門家とは異なる立場を採っている。その例として、日本の偉大な政治学者のひとり、故佐藤誠三郎先生は、編著書『近代日本の対外態度』の中で、「日本人が自国の国際的格付けにとくに敏感であり、自国の国際的地位を向上させることに強い熱意を持っている」点を指摘され、「日本人はGNPで測定された日本の国際的地位の急速な向上に大きな誇りを感じ」ていると述べておられる。

 こうしたなか4月に発表された国際通貨基金(IМF)の経済予測を見て、筆者は愕然とした。日本の名目GDPは、2009年時点で米国の36%と中国と並んでいたが、2018年には米国の28%。一方の中国は米国の71%となり、日本は遥か彼方に後退するとの予測だ。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を発表なさった1979年、日本の名目GDPは米国の39%で、中国は米国の10%であった。またバブル期の1989年の日本は米国の54%で、中国は8%であった。

 勿論、政治経済情勢はまさに万華鏡の如く刻々と変化してとどまるところを知らない。株価しかり、為替しかり、しかも経済の専門家といえども予測することは非常に難しい。とはいえ名目GDPで計測した日本の地位低下は否定し難い事実である。また残念なことに5月の速報ではGDP推計値に関してミスが発覚している。筆者は、読者諸兄姉が本稿をご覧になる時にはベルリンで講演を行っている予定だが、欧米の友人達から何と冷やかされるだろうかと、心密かに不安を感じている。


 ただ、こうした名目GDPで計った日本の地位低下を、我々は後世の日本人のために座視するわけにはゆかない。日本を代表する国士、吉田松陰先生は、幕末に国が乱れ国運が衰微するのを嘆き、「國の衰へたる、古(いにしえ)より未だ曾(かつ)て有らざるなり...安(いずく)んぞ一たび衰えて復た盛んならざることあらんや」と述べられた。我々も再び国運が盛り上がるよう、政府の成長戦略と呼応し、自らの能力と本分に従って新たなビジネス・モデルの構築に対し真摯に臨む必要がある。

 しかも、アジア情勢を鑑みる時、"ウィン・ウィン"となる経済的な切磋琢磨に専心し、破壊的で不幸な軍事的摩擦はできるだけ避け、相手の立場・感情を尊重する態度に徹したいと考えている。