広い地域を一つの医療圏ととらえ、高度急性期から外来、在宅、介護、健康指導に至るまで必要な事業拠点を垂直統合し、模範的医療経営をしている好事例として、長野県厚生連があります。
長野県厚生連の医療圏人口は2013年3月現在約213万人、年間検診者数は約40万人です。地域住民の食生活改善指導した成果もあり、日本で一番医療費を使わず、長寿社会を達成しています。
(表1)長野県厚生連(単位:百万円)
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2010年度実績 |
2011年度実績 |
事業利益 |
85,765 |
86,741 |
事業費用 |
83,445 |
85,632 |
事業外損益 |
350 |
355 |
経常利益 |
2,671 |
1,464 |
利益率 |
3.1% |
1.7% |
長野県厚生連は、厚生労働省が2012年度診療報酬改定で機能分化の徹底を掲げる以前から、技術進歩が加速する中でミスマッチ拡大を防ぐためには、病院を機能別にダウンサイジングして造る重要性に気付いていました。そして、これまで中核機能を担ってきた佐久総合病院(佐久市、821床)を高度医療センター(450床)と後方支援病院(300床)へ2分割する投資を実行しています。国公立病院以上に公益機能を発揮しながら、黒字経営しています。経常利益率が2010年度3.1%から2011年度1.7%と低下しましたが、これは高度医療センターの職員を前倒しで確保して人件費負担が一時的に増えたためと伺っています。なお、長野県厚生連の経常利益には、特別利益に計上される補助金は含まれていません。(表1)
■成長のビジネスモデルは「吸収合併」
医療費は高齢化により、当面は増えます。しかし、人口減少が既に始まっているわけですから、近い将来、人口減少による医療費減少効果が、高齢者による医療費増加効果を上回る分岐点が来ます。この分岐点を、総人口と人口構成変化のみを反映する形で試算してみると、全国平均では2030年です。しかも地域間格差が大きい。秋田、島根、高知などでは近々、医療費減少が始まります。今後、新規投資の際には、自分の事業体のある地域医療圏の医療費総額がどうなるかを踏まえて経営判断する必要があります。
医療費が減少する地域は、医療提供体制と医療ニーズのミスマッチがさらに拡大する可能性が高く、単独施設経営の病院のままでは、公立であろうと民間であろうと事業が縮小し、存続できなくなります。その中でも成長できるビジネスモデルはあります。経営難に陥った病院を選別しながら吸収合併していけばいいのです。これができるのは、既に規模が大きく、包括ケア提供能力を有する事業体です。
■ 危機打開に「大規模非営利事業体」創設
医療・介護費負担の重い自治体は、現在のような単独施設経営の公立病院を持つことができなくなります。しかし、この危機は逆に、全国各地に世界標準の大規模非営利医療事業体(表2)を政策的に創るチャンスでもあります。
(表2)世界標準の大規模非営利医療事業体
■ 利益が特定の個人に帰属しない非営利事業体 ■ 人口100万人レベルの医療圏に、急性期から外来、介護、在宅に至る、地域住民が必要とする医療サービスをフルセットで提供 ■ 事業体内の医療チームが患者情報にいつでもどこでもアクセス可能 ■ インターネットで公開される医療機能評価情報により地域住民が選択 ■ インターネットで診療録閲覧、処方箋更新、投薬指導、受診予約、簡易健康相談などができる |
人口100万人レベルの医療圏に、急性期から在宅に至るまでの医療サービスをフルセットで提供する事業体です。医療圏内で患者情報を共有し、アクセスを向上させます。インターネット上で地域住民が、医療へのアクセス向上につながるいろいろなサービスを受けられるようにします。医療機関の評価情報を公開することも必要です。大事なことは、地域住民が自分たちの受けている医療サービスが世界標準なのだと実感できる仕組みをつくることです。
この世界標準の大規模非営利医療事業体をつくる際に核になるのは、国公立病院、国立大学附属病院、社会医療法人です。そこに人材と情報を集積し、中核機能を担わせるのです。また、開業医や既存病院がその設備を利用できるオープン方式を採用することも、この仕組みの重要ポイントです。そうすれば、大規模非営利医療事業体以外の病院、外来施設、介護施設は、経営の独立性を保った上で、大規模非営利医療事業体との連携のあり方を選択し、共存共栄できるはずです。
経営内容とガバナンスが強固な、国民から信頼される世界標準のセーフティーネット事業体を全国につくれば、国民の将来に対する不安も和らげることができるのではと考えている次第です。
非効率病院の共通項(下) 終わり