コラム  国際交流  2013.04.04

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第48号(2013年4月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 3月中旬から4月初旬にかけて中韓両国及び欧米の友人達と意見交換を行った。北京では、日本銀行の福本智之事務所長が共通の友人に声をかけて下さったお蔭で、日中関係が極めて微妙なこの時期に、「慎重ながらも楽観的(cautiously optimistic)」な意見が聞けて喜んでいる。ご著書(The Paradox of American Power, 2002)の中で、ジョセフ・ナイ教授はcocktail partiesを通じた「新情報に対する非公式な形でのアクセス(informal access to new information)」の重要性をご指摘なされているが、我々はcocktailならぬsushiを通じcordial conversationを楽しみ、両国の互恵関係に関し具体的に取り組むことを約束した次第である。

 清华大学の阎学通教授は、ご著書(Ancient Chinese Thought, Modern Chinese Power, 2011)の中で、中国の知識人が欧米の国際関係論を知らない上に、『荀子』や『韓非子』をはじめとする祖国の古典思想を軽視していると嘆息なさっている。こうしたなか、筆者は中国古典に加えて、托克维尔(Tocqueville)の著書(«旧制度与大革命(L'Ancien régime et la Révolution)», 1856)、更には阿塞莫格鲁(Acemoglu)教授の近著(«国家为何失败(Why Nations Fail)», 2012)や斯奈德(Snyder)教授による名著(«帝国的迷思--国内政治与对外扩张(Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition)», 1993)に関し、中国の友人達と幅広く議論し合える関係を持てたことを喜んでいる。パリとロンドン、そしてオックスフォードでは习近平国家主席が愛唱する詩「过松源晨炊漆公店(Having Breakfast at Qigong Inn As Passing by Songyuan)」(南宋の楊萬里の作品)の解釈を多くの友人から解説を求められたが、正しくそれは想定外の驚きだった。中国に対する世界的な高い知的関心を改めて実感している。我々は、格差是正や環境対策等の習氏によるreform with Chinese characteristicsに期待し、また応援する一方、財政問題等のreform with Japanese characteristicsに注力しなくてはならない。

 パリ第一大学の友人達とは、経済問題に加え1910年のパリ大洪水(la Crue de la Seine à Paris)の再発防止を想定した危機管理に関しフランスが抱える問題を議論した。また彼等は、3月18日に発生したFukushima Dai-Ichiの停電事故に触れ、institutions with Japanese characteristicsに対し不安を表わすと同時に、東電福島原発事故調査委員会(国会事故調)の黒川清委員長によるご判断("Made in Japan")にも言及した。これに対し筆者は次のように答えた--「黒川先生は、事故によって"焙(あぶ)り出された"日本の現下の構造問題を、歴史的・国際的に比較検討し、それを踏まえた上で大胆な制度改革を行うべきだとご主張なされたと考えている」と。かくして先月は社会の「制度設計」を中心に、「改革」を誘発するアセモグル教授の"inclusive institutions"論やノース教授の1991年"Institutions"論文、更には「情報の流れ」に注目したディキシット教授の著書(Lawlessness and Economics: Alternative Modes of Governance, 2004)等について議論した次第である。


全文を読む

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第48号(2013年4月)